ジンを飲む夜
家ではあまりお酒を飲まない。たまに飲むのはお酒にあうおかずをつくった時。これはもう、酒と一緒に食わずしてどうする、というような一品。ありますよね。ガッツリ系のおかずの時はビール、料理によっては白ワインやハイボールの缶をあけたりする。
それから、気持ちが浮かなかったり、センチメンタルな気持ちになった時。ほどよいアルコールは、カチコチになった思考と体を解放してくれる。
今日は朝から気分に加えて体調もあまりよくなく(そんな時に飲むなって話だが)、気晴らしに何か飲もうと冷蔵庫を開け、ジンソーダの缶を見つけて蓋を開け、うすはりに注いだ。
グラスの縁に口をつけると、香草のいい香りが鼻に抜けていく。ライムのピリッとした刺激が喉を通ると、だるく感じていた体の節々までピシっとする気がする。
初めてバーで飲んだカクテルはジントニックだった。高校時代から山田詠美や江國香織が大好きだった私は、彼女たちが書く小説の主人公が好んで口にする「ジントニック」という名の飲み物に憧れていた。あれが飲めてこそ、本当の大人の女性という気がした。
高校を卒業して初めて人に連れていってもらったバーカウンターで、緊張しながら頼んだジントニック。思えば、さすがにいいバーだっただけあって、出されたカクテルはお酒慣れしていない私にもおいしく感じた(バーテンダーの腕を試すなら、ジントニックを頼むべし、という話はずいぶん後になってから聞いた)。
新宿や六本木のクラブに通っていた時も、最初はジントニックを頼んで、ちょっと味を変えたくなったらジンバックを頼んだりしていた。踊り疲れた体でもごくごく飲みたくなる、ジンのすっきりした味わいが好きだった。
今もジンの香りをかぐと決まって、あのバーの静かな時間と、大音量の音楽にまみれて遊んだ日々を思い出す。非日常を渡り歩く女性に憧れて飲んでいたジントニックは、今となっては非日常になってしまったあの頃の日々を思い出させてくれる飲み物になった。
ジンは次の日に残らないのもいい。明日は息子の部活の試合を見に行く。
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