station
鳩が座ったまま死んでいた。
首を丁寧に折りたたんで、
何色とも言えない羽根に押し沈めていた。
そこにだけ朝日が当たって、
辺りの寒々しい空気を溶かしていた。
美しい生の終わりを見た。
真っ白な空に
今にも飛び出しそうだった。
その隣には
シュレッダー済みの紙が詰められた袋が
何十と山になって積み上げられている。
さっきまで重要の判を押されていた紙が、
裁断されてゴミとなっていく、あのさま。
たった数秒の間に
何が変わるというのだろう。
本当は何も変わっていないはずなのに
どうしてゴミと言ってしまうのだろう。
ゆりかもめは自動運転中です
機械音声は淡々としている。
自動。
おい、自動とはなんだ。
途端に怖くなってくる。
転がるように下車して、乗り物を見る。
乗客の誰もが「不在」だった。
本当の意味で、誰もそこにはいなかった。
一体これは、
誰にとっての「自」で「動」なんだ。
どこへ行けばいいんだ。
駅のホームの極彩色のベンチで
あの子のことを考えてみる。
あの子は多面体のような脳みそをしている。
会うたびに微笑みの角度が違っている。
きっと涙はチャコールグレー、
血はエメラルドグリーンだ。
爪の色はショッキングピンクで、
腰骨には藍色の魚が泳いでいる。
なんて歪な人だ。
あの子の中には、あの子が何人もいて、
それぞれがそれぞれを嫌いで、
激しく詰り咎め合っている。
胸ぐらを掴んだ時に、
それぞれが心を痛め、
沸騰する内臓から警笛が聞こえている。
その沸騰はいつか眩しいものになって
細胞のひとつひとつを溶かしてしまうだろう。
もしも、
僕と君のどちらかが
溶けてしまう時がきたら、
それを飲んで一つになれば良い。
だから死にたくなったら僕も誘ってくれ。
夜は耽け、
自動運転の乗り物に乗らないと、
どこにも行けなくなってしまった。
最後の便が音もなく滑り込み、
一様な目をした人たちがまばらに乗り込む。
そして僕ものその後に続いてみる。
この鉄塊に「自」を預けてどこへいくのだろう。
乗り物は夜の間も止まらない。
僕は柔らかくも硬くもないシートに身を埋めて、
あの子が窓ガラスを叩き割る夢を見ている。
おわり
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何かを書くたびに
水辺への憧れに
自覚的になっていきます。
火への崇敬だったりもそう。
自然への敬意というよりは
変わらない事象への畏怖です。
社会に出てから
日常の割れ目がまざまざと見え
戦慄する生活が続いています。
メモを消化する意味で
これを書きました。
それから、
ゆりかもめはマジで自動運転なので、
そういうアナウンスが流れます。
ちょっと前のことですけど、
ヒュッとなりました。
渡部有希
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