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純粋な本能(ピュア/小野美由紀)

さまざまな形の性と愛をSFに落とし込んだ5つの短編集。
「女が男を食べなければ妊娠できない」未来を描いた表題作『ピュア』、親友の性転換がテーマの『バースデー』、数十万年前の凍結精子を使って生物学者が命の復活を試みる『幻胎』など、どことなく村田沙耶香っぽさを感じる設定が並ぶ。

未来の設定に現代人の価値観をぶち込むスタイルが多い村田沙耶香と違い、作者はそこで生きる人々自体を大きく変えている。
表題作『ピュア』はそれが顕著だ。舞台である遠い未来の人工衛星では、女は鱗におおわれた巨大な身体と鋭い爪・牙をもつ恐竜のような見た目へと進化。戦争に行って国を守ること、子供を産むこと、そのために男を食べることを義務付けられていた。
そんな中、普通の女の子である主人公・ユミは、初めて恋をしたエイジに「食べないで」と懇願される。自身の「食べたい」欲求と戦いながらもじっくり愛を育もうとするが、エイジが友人・マミに食べられそうになっているのを目撃し…という展開。

「食べたいけど、食べたら傍に居られなくなる」的なユミの葛藤や、食欲と性欲が一緒くたになった世界の混沌がテーマかと思いきや全くそんなことはなく、主軸はあくまで、「本能のままに生きるマジョリティと、立ち止まって考えるユミ」との対比だ。
ここでは、男女の強弱の逆転はおそらく大きな問題ではない。
本能のままに生きる動物(カマキリ)の世界に、理性をもつ人間をぶち込んだ実験の物語なのだと思った。

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