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介助と愛とミステリー(ワンダフル・ライフ/丸山正樹)

4つの短編が入れ替わりながら進行するこの小説。

「無力の王」
事故により頸髄が損傷、全身が麻痺して、一人では何もできない妻の介助を8年続ける夫の独白から幕が開ける。仕事を諦め心身をすり減らしながら介助をしても、感謝の言葉さえない妻に対する苛立ちや葛藤を、夫はブログに綴るようになり…

「真昼の月」
30代後半で子供を自然妊娠できなかった夫婦が、家を買うタイミングで養子縁組を考え始める。ただし養子は選べず、障害のある子が来るかも知れない。それでもいいと言う妻・摂の姿勢に夫は困惑する。

「不肖の子」
職場の上司・洋治と不倫関係にある岩子。洋治との関係が自然消滅した頃、洋治の子を妊娠していることを知る。産むか堕ろすか迷っていたタイミングで事故により流産するが、岩子は後に別の男性と結婚する。

「仮面の恋」
脳性麻痺を患う照本俊治は、ネットの掲示板を通じて福祉や障害者に強い関心をもつ女子大生・GANCOと知り合う。メールのやり取りで心を通わせる二人だが、俊治は自身が脳性麻痺患者であることを隠していた。GANCOから映画に誘われた俊治は、彼女に会いたい一心である作戦を思いつく…

登場人物の年齢や境遇は全く違うものの、障害、介助、愛という共通のテーマをもつ4つの物語。「後々全部つながっていくんだろうな」と予想しながら読み進めるも、物語は交差しないまま、それぞれ終わりを迎える。
ところが最後の最後に数ページのエンドロールを読むと、あっと驚く仕掛けに気づかされる、乾くるみの『イニシエーションラブ』を彷彿とさせる構成だった。

「無力の王」で妻の排泄を手伝う夫を動かすものは、愛か情か使命感か?
「仮面の恋」で描かれる、健常者と障害者の恋愛を阻む壁は真実か?

生々しい描写と重たいテーマを扱いながら、ミステリー要素を加えたすごく珍しい作品だった。


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