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早押しという競技(君のクイズ/小川哲)

※ネタバレあり※

優勝賞金1千万円、早押しクイズ界のM-1的な番組「第1回Q-1グランプリ」に出場した主人公のクイズオタク・三島。最終決戦まで勝ち進み、イケメン天才タレントの本庄絆と対戦することになるが、アナウンサーが最終問題を一文字も読み上げる前に本庄がボタンを押して回答し、敗戦する。
なぜ本庄は問題が読み上げられる前に回答できたのか?ヤラセか?魔法か?
という”クイズ”の答えを紐解いていく、ミステリー仕立ての小説。

早押しクイズには、オリンピック的な競技性がある。
最初の数文字が読み上げられた瞬間に答えの選択肢(人か場所か年代か等)をずらっと頭の中に並べ、一文字読まれるごとに選択肢を絞っていく。”確定ポイント”にいかに早く気づけるかが勝敗を決めるため、ボタンを押した直後アナウンサーが発する1、2文字を見込んで早めにボタンを押したり、アナウンサーの口の形から次の文字を予想したりといったことが、プレイヤーの間では当たり前に行われている。

さらに、大会の場合は出題者と解答者と観客がいて、ストーリーがある。(例えば演出は「終わりよければすべてよし」が正解となる問題を最後に持ってきたりする。)そうしたストーリーに気づく能力もまた、クイズプレイヤーとしての資質の一部だ。

三島は本庄の謎を調べる過程で、Q-1で自分が回答できた問題の半数以上が、”自分に関係するクイズ”だったことに気づく。
クイズ番組の生放送。誰も回答できなかったり、見当違いの誤答があったりしても、編集でカットできない。演出は番組を盛り上げる方法・プレイヤーたちのスーパープレイを確実に見せる方法を考えた結果、出演者が必ず答えられるクイズを用意したのではないか?
そして最後、三島は番組が終了してから音信不通だった本庄と対面し、”答え合わせ”をする。演出との付き合いの長い本庄は、Q-1で自分が答えられて(地元に関係する)、なおかつ過去に別のクイズ番組絡みで因縁のある問題がくると予想していた。だから、アナウンサーが最初の一文字を発する前、口の形だけで問題がわかった、というオチ。

このトリックが映画「スラムドッグ・ミリオネア」っぽくて少々期待はずれだったものの、クイズを紐解いていく過程や哲学はどれも新鮮で、あっという間に読み終えてしまった。

全てが明らかになったあと、主人公はこう述べる。

僕はクイズの内側からクイズのことを見ている。長年クイズをやってきたせいで、僕はクイズの中央近くに立っている。だからこそ、クイズとは、知識をもとにして、相手より早く、そして正確に、論理的な思考を使って正解にたどり着く競技だと思っていた。今でもそう思っている。
でも、外側から見たら違うのだろう。クイズは魔法だ。未来を予知する予言者や、相手の思考を読み取って答えを当てるメンタリストみたいなものだ。そうでないと、何文字か読みあげただけの問題に正解することなんてできない。

ただの知識オタクだと思っていたよ…すまんな。

余談だが、最近言語について考える機会があり、この早押しのシステムは日本語ならではのものではないかと気になった。日本語では「〜は誰でしょう?」と最後に「誰」がつくので早押しが通用するが、英語だと最初に「Who」がついてしまうから、”確定ポイント”に差がつかないように思う。詳しい人がいたら教えてほしい。

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