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台湾の”ちょっとしたヒーロー”への道

どんなに割引して見ても、私は愛想のいい人間だとは到底言えない。
一人で歩いている時なんかは尚更だ。
仏頂面も甚だしい・・・
にもかかわらず、何故かお年寄りや海外の人に道を聞かれたりすることが多い。
個人的七不思議の一つだ。

台湾へ来てからもそれは健在で、道を聞かれたり、その電車の行先を聞かれたり、行きずりの台湾の人にしばしば話しかけられる。

以前にも書いたが、台湾では他人に手を貸すことへのハードルが非常に低く、華麗でスマートな人助けを心得ているヒーローが多い。
私も何度も見知らぬ人に助けてもらっている。
いつか私も誰かを助けたいと思っているのだが、現実はなかなか難しい。
道を聞かれても、言われた「~路」(通りの名前)を知らなかったり、そもそも早口で聞き取れなかったり…。



数か月前のこと―――

スマホで記事を見せながら猛烈なスピードで話かけてくる女性に遭遇した。

恐らくその記事で紹介されている店に行きたいのだと思うのだが、店の名前を見てもこの通りで見かけたことはないし、そもそも彼女の早口をなかなか聞き取ることができない。
会社のお昼休みにちょっと買い出しに出た時で、時間も十分になく、
「すみません、私は日本人なので…」
と、二言三言中国語で言い訳を言って歩を進めようとしたとき、
「日本人なので…」
と、彼女が私が言ったセリフを呟くのが聞こえた。

彼女にとって私が日本人かどうかは問題ではない。
たまたま見かけた私に、少しでも助けてくれるだろうという可能性を感じて話しかけてくれた訳で、外国人かどうか、言語が流暢に話せるかどうかはそれほど重要ではないことなのだ。

情けない。

また恩送りをすることができなかった。

次はきっと、次こそは…と心に誓って、急いで会社へ戻った。



先日、朝の通勤途中のこと―――

交差点で信号が青になるのを待っていた。

遅刻しそうな訳でもなかったが、いつもより遅くなってしまったので気持ちが少し焦っていた。

すると、年配のご婦人が私にスマホを見せて何かを訴えかけて来た。
ところが彼女が話しているのは所謂標準語とされているものだとは思うものの、台北の方ではないのか聞きなれた発音とは違っていて肝心なところが聞き取れない。
周囲を見渡すと、私以外に信号待ちしていた二人の男性は共に(あくまで)外見的には東洋人には見えない。
なるほど、彼女が私を”第一村人”として選んだのは確率の高い選択だ。

が、私も(?)外国人だ。
すまん!

すぐに青信号になり、私たちは条件反射で歩き出した。

横断歩道を渡る途中、斜め後ろを歩くご婦人がスマホの画面を見ながら途方に暮れているのが見て取れる。

向こう岸には沢山人がいるし、私が彼女を助けられなくてもどうにかなるだろう…
そんな気持ちが頭をもたげ始めたその時、以前の”彼女”を思い出した。

『日本人なので…』


ええぃ!
こうなったら一か八か、もう一度話を聞いてみるか!

急に腹を括った私は、そのご婦人が安全に横断歩道を渡るのを手伝った後、もう一度目を見ながら話を聞いてみた。

すると、
「スマホの操作を間違えてEnglishのキーボードに変わってしまって、急いでメッセージを打ちたいのに打てない」的なことを言っているのが分かった。

おぉ!これなら私も役に立てるじゃーん!!

友達の多くは注音のキーボードを使っている。
きっと注音にしてあげれば一件落着だろうと思い、変更して画面を見せると、ご婦人は激しく首を横に振るではないか!

「私、このキーボードは使えないです!」

これじゃないだとぉ!?

台湾の人はピンイン(大陸の人が使うイメージ)は使わないはずだし…

いや、待てよ…
もしかして…

「字を書きたいのですか?」

「そうです!」

そういえば友達に一人だけスマホの画面に指で繁体字を書いて文字を打つ子がいるのを思い出した!
あれか!

キーボードを変更して、これでOKかと聞くと、ご婦人は安堵の表情を浮かべて首を縦に振った。
遂にミッションクリアだ。
「キーボードの変更はこのボタンでやるんですよ」
と、しっかり恒久対策もお伝えすると、

「謝謝」
と言われた。
私も
「不会(どういたしまして)」
と言って別れ、小走りで会社へ急いだ。
心なしか足取りが軽い(笑)

やればできるじゃ~~~ん!!!

ただキーボードの変更方法を教えただけなのに、その日は一日大変気分が良かった(単純)。
ちょっとした人助けというのは、人間の幸福度を上げると聞いたことがある。
この程度のお手伝いで一日気分がいいのだから、台湾のヒーローたちはさぞかし毎日気分良く過ごしているのではないだろうか。

台湾の人々が寛容で、幸せそうに見えるのは、ひょっとしたらそんな「無理のない人助け」が影響しているのかもしれない。
だとしたら、素敵な(言わば)ecosystemだなぁ。

一つ小さな成功体験を得たので、次の機会にはこれまでより少しだけ粘って話を聞いてみよう。
そうすれば、結果助けられなかったとしても、今までみたいな気持ちにはならないはずだ。

こうして、台湾の「ちょっとしたヒーロー」への道を一歩、いや半歩(?)踏み出すことができた私なのであった。

最後までお読みいただきありがとうございます。 また是非遊びにいらしてくださいね! 素敵な一日を・・・