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「八丁堀の怪人」だった私へ

<棺桶の中で聴きたいあの曲>

「オペラ座の怪人」と言うミュージカルが、もうめっちゃくちゃ好きだ。

内容全然わからん人も「ジャーーーーーーーン!ジャジャジャジャジャーーーーーーン!」って、あのテーマソングは知っているだろう。(今このジャーン!打つのに全然変換がうまくいかなくて、5回くらい打ち直した。めちゃくちゃ虚無の時間)

きっかけは、高校生の時 課外授業で劇団四季の「オペラ座の怪人」を見に行ったこと。冒頭に会場内に設置された巨大なシャンデリアがブオンブオン揺れる演出があるのだが、私はあれに脳天と海馬をボコボコに突かれてしまったようだ。

友人には「課外授業で見た舞台にあっさりハマった女」と思われるのが恥ずかしく俳優の演技をからかうフリをしてごまかしていたが、毎日毎日私が怪人の真似をして歌っているので(あいつハマったな…)とバレていたと思う。

大人になってからは一人でロンドン、ニューヨークで「オペラ座の怪人」を見に行った。全然英語わかんないけど、「phantom (怪人)」って単語だけはわかる。日常生活で使わない単語ナンバーワンだけど、劇場の前にたどり着くために必要な単語だから重要である。

DVDを買って繰り返し見て、英語版の台本を検索してセリフを覚え、CDを買って擦り切れるほど曲をきいた。来る日も来る日も、死んだ目でテーマソングを聴きながら会社に出勤した。棺桶の中ではこの曲を聴きたいと思った。怪人を自らの中に召喚しようとしている人の行動である。

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「なんでそんな好きなんですか?」と聞かれると、実はあんまりうまく答えられない。歌がいいとか、舞台装置が素敵とか、色々あるんだけど、最近やっと好きの理由を言語化できるようになった。一番の理由は「怪人と自分に確かな共通点を感じる」ことなのだ。

<怪人、めっちゃ私に似てるんだけど…>

見たことのない人にもわかるように内容を説明すると、「オペラ座に住み着いた怪人がダンサーに恋をして色々貢いであげるけど、全然恋が実らなくて癇癪を起こし人をめっちゃ殺す話」である。

もちろんこんな身もふたもない話がそのまま舞台になっているわけではなく、怪人の悲しい生い立ちの話とか、まっすぐな愛とか…いろんな要素でちゃんと泣ける話になっているわけですよ。一応ちゃんとしたあらすじを引用しておきます。

1870年代のパリ・オペラ座は、華やかな舞台でにぎわう一方、仮面をかぶった謎の怪人"ファントム"の仕業とみられる奇怪な事件の頻発に揺れていた。そのファントムを、亡き父が授けてくれた"音楽の天使"と信じ、彼の指導で歌の才能を伸ばしてきた若きコーラスガール、クリスティーヌ。彼女はある時、代役として新作オペラの主演に大抜擢され、喝采を浴びる。幼馴染みの青年貴族ラウルも祝福に訪れ、2人は再会を喜び合う。だがその直後、ファントムが現われ、クリスティーヌをオペラ座の地下深くへと誘い出すのだった...。

地下深くで、「ジャーーーーーーーン!ジャジャジャジャジャーーーーーーン!」って曲を怪人が歌いまして、その後確か3人くらい死にます。(ひどい要約)

殺人事件にまで発展するケースはなかなかないけど、大筋の話のジャンルとしては大学一年生の教室とか、キャバクラとかでよく聞かれる類である。

ある種の人間は、この怪人の「純で献身的すぎる愛」「それが裏切られた時の激昂ぶり」に親近感を覚えてしまう。大好きなあの人に手編みのマフラーを25m編んでしまったり(泳げる)、一万字くらいのポエムメールを送りつけてしまったり、あの人の携帯の画面を埋め尽くしてしまう量の着信履歴を残してしまったりする人種である。舞台のDVDを見ながら、私はつくづくこう思っていた。

私やんけ、私怪人やんけ…

オペラ座に住んでないってだけで、八丁堀の怪人やんけ…

<なんでだか、依存が止まらなかった日々>

割と最近まで、私はめちゃくちゃ依存体質だった。恋愛をすると脳内がもれなくピンク色に染まり、もう相手以外のことが考えられなくなる。

彼に世界一愛を注ぎたいし、世界一愛を注いでくれる女だと思って欲しくて今まで読んできた少女漫画やオトメスゴレンで培った知識を総動員して「いい女」を演じる。なんでもしてあげる!

しかし、「編めもしないのにかぎ針棒を持った女は怖すぎる」とばかりに、相手はどんどん逃げていく。逃げられると自分の全部を否定された気になって、たまらなく悔しいので、ものすごい勢いで追いかける。

あんなにしてやったのに、私を受け入れないなんてテメエぶっ殺す!」と頼まれもしない愛情(しかも嬉しくない)を勝手にかけておいて、恩を仇で返したと逆ギレしているような有様でして。もうこれはキャバ嬢にきったねえ手作りのおにぎりを差し入れて、喜んでもらえないとブチギレてるおっさんみたいな痛さ。

そういうわけで、オペラ座の怪人よりも、八丁堀の怪人はよっぽど怖くてたちが悪い人間だったわけです。

毎回2000文字で全然書ききれなくてあれなんですが、八丁堀の怪人がその後下町のまあまあ常人になるまでの過程を、またどこかでお話しさせてください。





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