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GAZA情勢及び日系人強制収容所

 2024年6月9日。
スペイン紙エル・パイスには文学及び音楽評論欄がある。表題をBabeliaというが、Babeliaなる言葉の意味を私は知らない。辞書をあたったが出てこない。人の名前か、あるいはスペイン国内では誰でも知っている単語なのか、よくわからない。

 本日、そのBabelia内で日系人強制収容所に関する記載があった。アメリカの女流作家メラニー・ウィギンス氏の著作「Properties of Thirst」を紹介する記事の中にそれを見つけた。Properties of Thirst はスペイン語でLas propiedades de la sed.と書く。日本語にすると渇きの土地、になるのか。propertyは所有地、財産、あるいは性質といった意味を持つ。このあたりの言葉の感覚はどうしたら身につくのかよくわからない。もっともわからないのを我慢して小説の中身を読めば、タイトルの最も適切な訳が自然にわかるのかもしれない。
 小説の舞台はカリフォルニアの大農場。所有者はロッキーという。妻を失い、娘のサニーと彼自身の双子の姉とともに農場に暮らす。サニーにはストライカーという名の兄がいる。ストライカーは日本軍の真珠湾攻撃により現在、行方不明となっている。ロッキーは土地の水源を巡りロサンジェルス水道局と揉めている。ある日アメリカ連邦土地管理局(United States Department of the Interior)からひとりの男が日本人強制収容所設立のためにやってくる。ユダヤ人の弁護士だ。名をスチッフという・・・。
 ここで日本人強制収容所が現れるのだ。

 Properties of Thirstの日本語訳は出ているのだろうか?カリフォルニアの大農場を舞台に一家族の歴史とアメリカ合衆国の負の歴史を絡め描かれる長編作品だ。スタインベックの「怒りの葡萄」をちらと思った。しかし今夜はこの小説について述べたいわけではない。
 エル・パイスは小説の紹介とともに、1943年当時の日系人強制収容所の様子を示す写真を大きく取り上げている。

 1941年の真珠湾攻撃を受け、アメリカは1942年から1945年にわたり大量の日系人を強制的に複数の収容所に送った。カリフォルニア州インヨー郡にあるマンザナー収容所は特に有名だ。米国の写真家アンセール・アダムスがモノクロの写真を遺している。
 今日、その写真をエル・パイスが紹介しているのだ。なぜ今日なのかはよくわからない。エル・パイスの記述が普段からどちらかといえばアメリカに批判的であることがどこかしら関係しているのかもしれない。

 モノクロ写真の背景には巨大なロッキー山脈が見える。稜線は刺々しく、しかし少なからず滑らかでもある。小柄な日系人たちが畑仕事に従事する。ほっかむりをした女たち。長靴をはいた男たち。畑は広大で幾筋もの畝がなだらかに続く。
 別の写真には掘っ立て小屋が映る。マンザナー佛教會と書いてある。英語で横にBUDDHIST CHURCHとある。ブーツをはき、洋傘をさした日系人女性がいる。男たちは革靴とコート、あるいはジャケットだ。
 あるいは狭小の理科実験室の写真がある。大きな襟のシャツの上にVネックセーターを重ねた日系人の若者たちがなにかの講義を受けている。天秤ばかりと液体の入ったフラスコがふたつ。
 部屋の中を映した写真もある。デスクには木製のプレートがあり、プレートにはおそらくはこの部屋に住んでいたであろう日系人の名が記載されている。Roy M. Takeno.
  ペン立てに二本の万年筆。デスクには洋書が並ぶ。
 ORIGIN OF THE AMERICAN REVOLUTION 
   OXFORD BOOK OF ENGLISH VERBS
   AN ANTHOLOGY OF WORLD PROSE
   ボロボロのシソーラス(類語辞典)。背表紙は貼りかえられている。
 
 イエス・キリストの絵姿を入れた額に日系人兵士の写真が重ねられている。美しい筆記体で書かれた封筒がふたつ。横にリボンをあしらった女性用の帽子が置かれていた。
 野球場の写真もある。ゲームを見守る日系人たちの髪は短く切り揃えられ、男たちはソフト帽や山高帽。女性もいる。バッターボックスにいるのは日系人と見える。相手チームはアメリカ人のようだが、定かではない。

 マンザナー収容所を書いた作品として山崎豊子氏「二つの祖国」があるとウィキペディアで見た。わたしはもちろん「二つの祖国」を読んではいない。

 夕方。用事から戻り、ワシントン・ポストを斜めに読んだ。
約20分おきにガザの戦況について報告している。主たる情報は以下だ。

The death toll from an Israeli raid on the Nuseirat refugee camp has risen to 236 Palestinians, Gazan health officials said Sunday. Israel’s Saturday raid, one of the bloodiest in the war, on the central Gazan camp freed four hostages. Visuals from Gaza showed roads strewn with debris and grievously wounded Palestinians, some without limbs.

おおまかな内容。
ガザ中部ヌセイラトをイスラエル軍が攻撃、4人のイスラエル人人質を救出、パレスチナ人236人を殺戮。今回の戦争でもっとも血生臭い惨劇に数えられる事態だ。道路は瓦礫とひどい傷を負ったパレスチナ人で溢れている。手足を失った者たちもいる。

19時のNHKニュースは、イスラエルの人々が人質4人の解放に祝杯をあげる様子を流していた。

 2024年6月9日。
 いろいろと考えた。あるいは圧倒されてなにも考えられなかった。少なからず疲弊した。そろそろ眠ろう。
 明日は卓球だ。



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