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わたしはギターを弾いている 

ベージュのショートパンツ
丈の短い
サーファー風Tシャツ。
手に入れたから
もう何も欲しくない。

病みあがりの荒い息で
ギターを弾いた。
Fを押さえられるようになったから
簡単な歌なら
弾きながら歌える。

海と星空。
ふだん忘れてる。
私と神さま
ふだん忘れてる。

私は「わたし」を持っている。
誰もが「わたし」を持っている。
私の「わたし」と
誰かの「わたし」

たいした違いはない。

どれだけ金を積んだとしても
不動産を買い漁る
ブランド品を買い漁る
金を買い漁る
女と
男をかき集めて
酒と肉。
魅惑のギャンブル。
氷より冷たい腰つき。
ドラッグ。
嘔吐とトイレの小窓。
月光。

あるいは月に行く。
天にまで届くビルを建てる。
島を買う。
国を作る。
ひとを雇う。
ひとを騙す。

高級ホテルの
プールサイドで
バーベキューをする。
あるいは
最先端の武器を造る。
人間の脳みそよりも
はやく動く
装置をつくる。
装置でにんげんを支配する。
にんげんは
歴史を
壊して
作る。
作って
壊す。

その程度しか
つまりは人間は思いつかない。

毎日のご飯と
飲み物と
雨風から逃れるための住居と
季節に合わせた衣服。
靴。
自転車と
本と
古ぼけたシソーラス。

北のキツネはばい菌だらけだ。
神社の鳩はばい菌だらけだ。

情報はぴゅんぴゅん飛ぶ。
でも
肝心な情報は
どこかで誰かが
押さえている。

慣れ親しんだマットレスの上、
木綿のパジャマを着て
古い物語を読む。
物語
物語
誰もが「わたし」を持っている。
誰もが「物語」を持っている。

病みあがりの荒い息で
ギターを弾いた。
だれもが知っている歌は
「わたし」が知っている歌だ。

私は「他者」を知らない。
私と「他者」は未来永劫平行線だ。
私はだれかの「わたし」を知っている。
私とだれかの「わたし」は話ができる。
タイプライターの音について。
七面鳥の値段について。

音楽隊を待とう。
音楽隊があらわれるまで
丹念に
自分のこころを耕そう。

音楽隊があらわれたら
もうなにもいらない、
こころもいらない。
音楽隊といっしょに
空気のそとを目指して
ステキな旅へと繰り出そうじゃないか。

アンデルセン
あなたの物語は
ちきゅうを何度もめぐっている。
なんども繰り返しめぐっている。

ナポレオン
楊貴妃
ミケランジェロ。
あなた方の物語は
ちきゅうを何度もめぐっている。
なんども繰り返しめぐっている。

音楽隊があらわれたら
空気のそとを目指して
ステキな旅へと
こころを伸ばそう。

現実は「物語」だよ。
物語は「真実」だよ。
歌いたくて、
だから
わたしはギターを弾いている。





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