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ジャニーズ事務所の社名変更、商標より内向きのネーミングの方が問題かも?

どうやら商標に関する論点はなさそうなのでボツにしようかと思いましたが、企業ガバナンス上教訓になることもあるかもしれないので、投稿することにしました。
数日前からジャニーズ事務所の社名変更が公募されると噂があり、商標法上の問題が生じるのではないかと言われていました。
昨日報道があり、すわ、ジャニーズ事務所が社名変更か、と思いましたが、元の事務所は被害者への補償会社となり、その補償会社の社名が「SMILE-UP.」(スマイルアップ)になるとのことで、思っていた事態とは違うようです。
今後は、旧ジャニーズ事務所の所属タレント等は社名公募する予定の新会社に全員移籍し、知的財産等コンテンツも新会社に移転し、スマイルアップは芸能事務所としての営業は行わないようです。
↓ざっと読んだところこちらの報道が詳細でした。

そうすると、ネットが今か今かと待ち構えていた真の「ジャニーズ新社名」の発表は未だのようですね、続報をお待ちください(おわり)。


以上、スマイルアップは芸能事務所としては活動しないようなので、この話はここで終わりなのですが…
ここからは完全に余談として展開していこうと思います。
「スマイルアップ」という商標をJ-Platpatで単純文字列検索すると、
そのなかには、スマイルアップの由来となった「Smile Up ! Project」というジャニーズ事務所による登録商標もあります。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2018-109883/1B494C35EC0BE13336890920946087DF0CA442B8DF62ECD524319D7A0D5D46CA/40/ja

その指定商品・役務には、「人材の派遣に関する事業の管理又は運営,職業のあっせん」が含まれていますので、芸能事務所的な領域もカバーされていました。しかし、「SMILE-UP.」とは異なる商標ですね。

調べると「Smile Up ! Project」については、震災復興支援など、人道支援的な用途で使われていたようです。

しかし、ジャニー喜多川氏に関連するものであり、「SMILE-UP.」に社名を変えたとしてもイメージが払しょくされないとの向きもあるようです。


ちなみに「スマイルアップ」という商標について、社会福祉法人近代老人福祉協会さんが、指定役務「職業のあっせん」について商標権をお持ちです(第6621215号)。


https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2021-091367/87D5DC6A0DE54040474E6810706CAFCDA4E9882CCECAE7CD129C1C1F9249B2EC/40/ja

この出願は、ジャニーズ事務所の「Smile Up ! Project」より後に出願されていて、指定役務「職業のあっせん」について競合しているのに登録されているということは、「Smile Up ! Project」と「スマイルアップ」は非類似の商標として、共存が許されたということでしょう。

社会福祉法人近代老人福祉協会さんも相当びっくりされたと思います(知らんけど)。

びっくりしたと言えば、プリマハムさんも相当びっくりされたようです。

こちらもネット上の適当な意見でああだこうだ言われているようです。


実際、プリマハムさんの商品は最近販売されたばかりのようです。まだ商標登録出願も出たばかり(商願2023-76908,商願2023-66125)の様子でまだ登録されていはいません。登録されたとしても指定商品は「肉製品」だけですから、ジャニーズ事務所後継の新補償会社と商標上のトラブルが起こる可能性は低いでしょう。


https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2023-076908/89F377EBAF253A420EDC4D0E04056F130F8A469DC1C6A5F55CD880805F7CFA93/40/ja

どうでもいいけど、指定商品「肉製品」って、出し方雑ですね。

補償会社に商標は必要なのか?「SMILE-UP.」は社名として適切なのか?

補償会社が実体的に何を業務として行うのかはイメージできませんが、商標における指定役務として「~の補償」という役務は存在します。
例えば「購入商品に関する補償」などで、類似群コードとしては、36C01という類似群に属するようです。しかし、「SMILE-UP.」について登録商標を取得する必要があるかは不明です。

一般的に「補償」と言った場合、被害を及ぼした会社がそのまま救済を行うことになるので、別会社を設立するというケースはあまりなさそうです。例えば東京電力であれば、東京電力として補償を行っています。

それより今回問題というか、微妙なんじゃないかと思うのは「SMILE-UP.」というネーミングです。
例えば東京電力が「笑ってください」という社名で補償会社を立ち上げたら被害者の方はブチ切れますよね。ちょっと例が極端ですみませんが。
この「SMILE-UP.」については、会見でも触れられているように、やはり「Smile Up ! Project」に由来するもののようです。
そうすると、ジャニーズ事務所としては、過去に震災支援なども行ってきた経緯やイメージも考慮して、この新社名に何らかの思いを込めているのかもしれませんが、それはやはり内向き志向というもので、被害者から見たら相当微妙なのではないでしょうか。
結局最後まで自分たちのことしか考えていないということになりかねません。

前川知的財産事務所
弁理士 砥綿洋佑