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経営力をバージョンアップさせる『M&A思考』

経営者としての後悔

マッサージ店を全国的に広げて、200億以上の高額でバイアウトした創業者の方を最近ネットでよくお見受けしますが、その人の言葉で印象的だったものがあります。

それは、そのバイアウトが成功したのは、起業当初からそれを狙っていたからだと。

これはすごく大切なことで、よく散歩の途中で富士山に登る人はいないと言われるのと同じです。そんな軽装備で登れるものではないし、精神的な「覚悟」のようなものも、散歩と富士登山ではまったく違うはずです。

要は、より高額な売却を目指して、起業当初から会社の価値をいかに高めるか、第三者目線での客観評価を常にするということです。

私は約25年間、経営者として事業を営んできて、いいことも悪いこともそれなりに経験してきました。今の時点で法人は4社創業しましたが、経営はいい時も悪い時もあります。経験した後で猛烈に反省することも、時にはあります。

中でも一番の反省点は、もっと早くから『M&A思考』をもにつけておくべきだったということです。

実際にM&Aをするということではなく、経営者の思考として、M&Aの感覚を持っておくべきでした。それが一番の後悔でもあります。

M&Aの中心概念は『企業価値』

会社そのもの(株式)、あるいはひとつの事業の価値を判断して、それに値段を付けて売買するのがM&Aです。

それは、銀行融資のような「過去の価値」だけではありません。過去価値だけだと、3年分程度の債務諸表などである程度の金額が決まります(計算方法はまちまち)。

売り手の希望はもちろんあるでしょうけれど、あくまで買い手の意思です。「1億以上じゃないと売らない」と売り手が言っても、どう考えても5000万のバリューしかない会社に1億出す買い手はいません。

ただし、そのようなバリュエーションであっても、相手によっては大きな将来価値を見込めるものもあります。いわゆる「シナジー」です。そこには共通した計算方法があるわけでもありません。

例えば、自動車整備工場が売りに出ていたとしましょう。自動車(従来の化石燃料車)産業は、これから衰退していくのが目に見えています。多くの人にとっては、新規参入はちょっと考えられない業種かもしれません。しかし、自動車整備工場を持っている同業者で、設備や人員(整備士有資格者)の不足に悩んでいる会社だったらどうでしょう。

まず、設備に関しては、一から作り上げるのは当然大きなコストがかかります。そして、今この業界を悩ませているのは、有資格者の人員不足です。資格を取る人自体が減っているなかで、有資格者も職を離れているケースが押いのです。採用にどれだけコストをかけても、なかなか人が集まりません。

しかし、設備と人を増やさないと仕事が回らない。そのような場合、M&Aによるシナジーは容易に想像できますよね。その買い手にとっては、過去価値だけではないバリューがあります。

あるいは運送業で、毎年莫大なコストをかけて車両の整備や保険の加入をしている会社も、自社で整備工場が持てたとしたらどうでしょう。

もちろん、金額とのバランスですが、自社の商圏でそのような会社が売りに出ていたら、飛びつきたくなるかもしれません。そのような状況にある会社にとって、設備と有資格者が揃っている他社を買い取るのは、大きなメリットがあることは容易に想像できます。

仮に斜陽産業で、財務的にも厳しい会社であっても、喉から手が出るほど欲しい会社はあるのです。そこが「過去の実績」だけで判断できない、その会社にとっての企業価値です。

M&A思考

前述のとおり、M&Aとはその企業価値をお金に換算して売買するのがM&Aです。そして、現時点での自社の価値は、社長として常に把握しておきたいことです

さらに、自社ならではの価値を客観的に把握している経営者は、とても強いですね。そこに経営リソースを集中させることができますし、対外的にもアピールしやすい。

自社の強みはどこで、いま会社を売ろうとしたら、客観的にいくらくらいのバリューが付くのか。どんな会社だとどんなシナジーが期待できるのか。その計算方法、考え方、そして、その価値を上げるためには何をするべきか。それが社長が考える一番の仕事だとも言えます。

ずいぶん前ですが、還暦過ぎてからアメリカのシリコンバレーで起業した人とサンノゼで会って食事をしたことがあります。その時は、まだ起業して数年くらいの段階でしたが、さらっと「今のうち(当社)は〇〇ミリオン(ドル)くらいで、来年はおそらく〇〇ミリオンにはなるでしょう」と、自社の企業価値と将来予測を言ったことに驚いた記憶があります。

そういわれると、アメリカの起業家はそのような発言をよくします。常に自社の価値を数値化して、頭に入れてるんですね。今思えば、それはまさに『M&A思考』が根元にあるからです(ちなみに、その還暦ベンチャーの方は、その後数年してAppleに売却しました)。

要は、経営者の重要な仕事は、現在の企業価値を把握し、それを増大させる仕組みを構築することです。ミッション、ビジョン、ビジネスモデル、組織、仕組、人材、資金などは、すべて企業価値を高めるための戦略と戦術です。

そして、将来の自社のバリューを予測し、そこに向けて経営していく。実際に売却するかどうかに関わらず。

それがM&A思考です。社長にM&A思考があると、M&Aのハードルはグッと下がり、より身近なものになります。それは、100人の会社でも1人の会社でも同じです。

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