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季節のねじをまく鳥の声。

桜の花が散り、次は私たちを見て! と言わんばかりにつつじの花が堂々と咲き誇っている。花は、今どの季節かを知らせてくれる。けれども、耳から季節がひとつ巡ったことを教えてくれるものがある。

それは、鳥のさえずりだ。

普段聞こえる鳥の声はすずめやからす、公園に行けば鳩がいるくらいだろうか。しかし、そろそろ春の陽気を感じ始める三月あたりから、ホーホケキョと高く、辺り一面に響き渡る声を耳にするようになる。うぐいすの鳴き声だ。うぐいすの声を聞くと、「ああ、まだちょっと寒いけどもう春なんだなぁ」とほっとする。うぐいすの姿を見たことはない。

ちなみに、うぐいす、と思っている鳥はメジロという鳥であることが多い。ちょうどサムネイル画像に使わせてもらった写真がメジロだ。花札には「梅にうぐいす」という札があるけれど、梅の木にとまって花の蜜を吸っているのはメジロなのだ。うぐいすは竹やぶの中などで暮らしていて、非常に警戒心が強い。街中に姿を見せてくれることはよっぽどのことがない限りないだろう。

四月に入ると、さらに騒がしい声が聞こえてくる。ピチピチ、ピピピッ、チュンチュンチュン。スズメよりもせわしなく、動き回る声がする。私の頭のすぐ上でスイーッ、スイーッと気持ち良さそうに飛びまわる黒っぽい影。

ツバメがまた、この街に戻ってきてくれたのだ。

ツバメたちはすばしこく、交差しながら電線近くをクルクルと旋回している。ツバメが低く飛ぶと雨が降ると言われている。けれど、海が近く、湿度が高めの私の住む町では、ツバメはたいてい低空飛行だ。電線に並んで止まっている姿を見つけると、「おかえりー!」と手を振りたくなる。スラリとしなやかな身体。胸もとの赤い色。飛んでいる時の無駄のない動き。すべてがパーフェクトにかわいくて、私はツバメが大好きなのだ。

またこの町で、ヒナを育てようと思って戻って来てくれたことも嬉しい。最近では、ツバメの巣を壊してしまって、近づかないように鳥除けのトゲトゲしたプラスチックのガードを置いているところもある。たしかに巣を構えると、フンを落とされるし、迷惑かもしれない。けれども、あの一斉に孵ったヒナたちがカッパリと大きな口を揃えて開けている姿を眺めるたびに、力強い気持ちが込み上げてくる。我が家の軒先で巣を作ってくれたらいいのになあと毎年考えているが、来てくれそうにもない。「巣作りはぜひウチへ!」と、ツバメたちへのアピール方法を考える必要があるのかも知れない。

ツバメの鳴き声を初めて耳にしたとき、これは鳥の声だろうか? と辺りを見回したほどだった。
ピチピチ、ピピピピ、チチチチ、ギュギュギュギュギュ。
最後の「ギュギュギュギュギュ」という響きはドリルとか、ねじを巻く音のようにも聞こえるのだ。

村上春樹さんの「ねじまき鳥クロニクル」には、世界のねじをまく鳥の声が描かれている。どことなく、不吉な鳴き声だ。
けれども、このツバメの鳴き声は、季節のねじを巻く響きとして、私の耳に心地よく伝わる。

また、この季節がやってきた。もうすぐ、暑い夏がノックもしないでずかずかと入り込んでくる日が近づいている。

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