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みそ汁、スープ、御御御付。

「うちは、ちょっと普通の家とはちがうから、気をつけなあかんで」

わたしが結婚することになり、父がわたしにだけこそっと言ったことがある。

わたしの実家では、ほとんどみそ汁を食べない。母があまりみそ汁が好きではないのか、母自身あまり汁物をとりたくないのだという。特に夕食時に汁物をとると、夜眠っているときに、トイレに行きたくなって目が覚めるからという理由もあるらしい。

そのため、わたしの実家では、みそ汁は休日のお昼ご飯のみ食べるものだった。キャベツやら玉ねぎやら、野菜がたっぷり入った具だくさんのみそ汁。みそ汁の中に卵を落として、そのみそ汁だけがおかず、ということも度々あった。みそ汁を二杯くらいおかわりすれば、みんなお腹いっぱいになる。

冬場には例外的に、酒かすを溶いて作る「かす汁」や「豚汁」など、シーズンに一度くらいは夕食のメニューにあがったけれど、それらもまた具がたっぷりと入っていて、汁物、と呼ぶには抵抗があるほどだった。

しかし、父は具がたっぷり入ったみそ汁はあまり好きではなかったらしい。夕飯にもみそ汁を飲みたいと、言っていたこともある。そんな時は、父だけがインスタントのみそ汁か、わかめスープをお湯で溶いて飲んでいた。

結婚をすることになり、わたしが実家を出ていくとき、父は心配だったらしい。「普通の家では、だいたいの食事にみそ汁がつくから。ご飯と、おかずと、みそ汁。うちの家はみそ汁がつかないのが当たり前やったけど、それを普通と思ってたらあかん」

結婚生活の何を心配するかと思いきや、父はみそ汁について心配してくれていた。

たしかに、夫はわたしが食事にみそ汁をつけないと「みそ汁がほしい」と訴えることもあった。私がめんどくさがって作らないと、自分で作って飲んでいた。自分で作れるなら自分で作ってよと、わたしが言うと「それもそうだね」といって、その後は取り立てて不満を言うこともなく自分で作ることが多かった。夫は作ったみそ汁を「一口飲んでよ」と、なぜか私にすすめてくることもあった。だいたい、夫が作る料理は味付けが濃くて「しょっぱい」と、わたしは顔をしかめることが多かった。(わたしが作る料理は味が薄いんだなと、と知ることにもなったのだけれど)

しかし、結婚して十年が経つと、みそ汁に対して持っていたわたしのハードルもだんだんと低くなってきた。みそ汁もつくろう、そう思うことが割りと普通になっている。

最近では「夕飯はみそ汁飲みたい」と、以前ならば考えられない発言をするようにもなったし、「夕飯はスープでいいかも」と思うようにもなった。

スープ作家の有賀薫さんの「おつかれさまスープ」も、おいしそうで「夕飯にちょうどよさそう」と、購入したばかりだ。まだ、作ってはいないのだけれど、とにかく遅い時間にくたびれて帰ることが多いので、夕飯はスープかみそ汁だけでも飲んで、寝たいと思うことが多い。有賀さんがTwitterで「スープ生活は太らない」というようなことをおっしゃっていたのも、ちょっと試してみたいと思う一因でもある。

まだうすら寒い日が続き、帰宅してほっとしながら暖かいお味噌汁やスープを口に含んだときに得られる幸福感を、これから体験できるのかと思うと、楽しみでしかたがない。






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