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サバとサーモンが移住の決め手になる可能性について

暮らしていく中で、何を一番に考えるかは本当に人それぞれだ。ただ、普段からそんな話をしていないことが多いため「それを基準にするの?」と、びっくりすることもある。

以前、姉との会話で「日本以外に移住することになるとすれば、どの国が良いか」と話し合ったことがある。

なぜこんな話になったかは定かではない。「日本沈没」という映画のテレビCMを見たことがきっかけだったような気もするし、国際結婚をした人にスポットを当てたテレビを見たからかも知れない。

姉は「私はもう決まってる。ノルウェーかカナダ」と即答した。

ノルウェーとカナダ。どちらも冬の寒さが厳しい場所である。なんで? と聞いたところ、こんな答えがかえってきた。

「鮮魚コーナーを見てると、だいたいサバはノルウェー産が多いやろ。あとノルウェーサーモンとかアトランティックサーモンとか。鮭も漁獲してる。市場にあまり出回らなくても、何とかして入手すれば塩焼きにして食べられるやろ?」

塩焼き? 移住の決定打が魚の塩焼きとは。
ちょっと、何を言ってるかわからないんですけど、だ。

姉は暮らしの基本である衣食住の中で一番大切にしているのが「食」だった。そのため、もし日本以外に住むとなったときに、日本食が恋しくなるに違いないという。今でこそスシやら何やらと和食を食べられる国も増えているだろう。けれど、そんな特別な料理ではなく、普段食べている魚の塩焼きを食べたくなるに決まっていると、真剣に語り出した。

多くの国で漁業は行われているはずだけれど、普段から馴染みのない魚、例えばキャットフィッシュ(ナマズ)なんか出てきても納得しない。鯖と鮭が有名な場所に移住すればなんとかすれば食べられるだろう、と。

移住の決定打が魚の塩焼きかと思うと、「それで決めていいの?」とちょっと心配になる。

一方、私はイギリスかカナダ。大きな決め手はなくて、単なるイメージ先行だ。イギリスは歴史もあり、古い文学作品もたくさんある。本を読みたくなるだろうから、古典的な作品から新しいものまで自由に手に取ることができる国という印象だ。実際には訪れたことがないためどんな感じかは分からないのだけれど。カナダに至っては、何となく住みやすそう。国土も広いし、みんな優しく、大らかなイメージ。アイスホッケーに夢中になれるかはわからないけれど、メープルシロップは大好物だ。

随分曖昧なイメージだけで、よくカナダに移住しても良いと考えたものだ。けれど、私の移住計画の中にはアトランティックサーモンはちらりとも顔を覗かせることはなかった。確かに、私は衣食住では「住」に重きを置いていて、どちらかといえば食は気にしていない。お腹が膨れればいい。その程度だ。もちろん、日本を離れて暮らしたことがないため「日本食が恋しい」という考えに至らないだけかもしれないのだけれど。

何か、物事を決めるとき。何が決定打になるかは人によって違う。私にとっては本が決定権を持ち、姉にとってはサバの塩焼きが決定権を持っていた。移住といった大げさなことだけに限らない。村上春樹の「レイダーホーゼン」という短編にでてくるみたいに、離婚の原因が一枚のレイダーホーゼンであることだってある。引っ越しの理由が転勤の人もあれば、おみくじが決め手という人だってあるだろう。

何を基準にしているか、何を大切にしているかは、普段の生活では見えないことも多い。ただ、それは自分が決めたことで、自分が大切にしている物ならだれにも文句を言われる筋合いはない。

今のところ姉はノルウェーにもカナダにも移住しておらず、日本でノルウェー産のサバやカナダ産のアトランティックサーモンに舌鼓を打っている。



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