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おさかなって、どんなかたち?

「鯛の写真を見せて、この魚の名前は分かりますか? って聞いたら『金魚』っていうんです。高校生になっても、知らないものは知らない」

わたしが大学生の頃、ある女性教授の講義でこんな話がされた。都内にある女子校に講演をおこなった教授はすこし自嘲気味だった。

いまどきの子が魚を見れば「金魚」というのは、魚そのものの姿をしらないから。スーパーへ魚を買いに行けば切り身になって売られている。身近な魚といえば、めだかや金魚といった小学校のときに教室で飼育したり、縁日でふれたことのある種類がほとんどだという。

女性教授は「情けない」といいながらも、それが「現実ですよ」とも言っていた。普段食べている魚は切り身でしかなくて、魚そのものの姿になんて興味がないのだという。

もちろん、スーパーの鮮魚コーナーをのぞくと、今が旬のサンマやイワシ、アジなどは魚のすがたのまま売られている。ぜんぶがぜんぶ、切り身や調理された「食材」に変わっているわけじゃない。けれど、シャケやウナギ、マグロやカツオなどは一匹、一尾のすがたでみることはほとんどなくて、もはや「マグロの解体ショー」といった扱いにもなっている。

「その切り身になっている魚、もともと、どんな姿だったのか」というテーマで作られた絵本がある。

絵本のタイトルは「きりみ」。作者は長嶋祐成さん。水と水生生物を専門に描く魚譜画家(ぎょふがか)である。

さけの塩焼きからはじまって、うなぎの蒲焼き、たちうおの塩焼き、かれいの煮付け、イカの塩辛など食材として姿を変える前、魚たちはどんな姿をしていたのか、どんな身体をしているのかを、ていねいに描き、解説されている。

食育、とひとことで言ってしまうこともできるかもしれない。けれど、ただ、単純にそのひとことで終わらせるのではなくて、食べ物としての魚の姿もあるけれど、生き物としての魚の姿もあって、どちらにも興味をもってほしい。そんな思い出つくられた絵本である。

骨があって食べにくいということもあり、食卓にのぼる機会が減っているらしい。また、生育環境や漁獲などに問題があり、絶滅の危機に瀕する魚種もある。水生生物や魚たちを取り巻く環境は年々変わっているし、消費者が意識を変えなければいけないことも多い。

そうしたなかでも、魚そのものに意識をむけた「きりみ」という絵本は子どもはもちろん、大人が読んでもいいだろう。少なくとも、これまで何の気なしに手に取っていた、塩ジャケ三切れパックを見る目が変わるだろう。




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