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包丁は、切れ味悪いほうが好き。

包丁、切れにくくなってるから研ぎたいんだけど」時々、夫にこう言われることがある。

夫と私の二人暮らし。ふたりとも勤めているためか、家にいるどちらかが家事をすれば良いと考えている。
もちろん、それぞれ得意不得意の家事がある。そのため、掃除は疎かになるだとか、洗濯物を取り込みはするものの畳まずにぐちゃぐちゃのままだとか。もうひと頑張りしてほしい気持ちもあるけれど、お互いさまだということで目を瞑ることも多い。

そんな中で、私はほとんどやらない家事がある。それは「包丁を研ぐ」というものだ。毎日料理を作る上で包丁は欠かせない道具だ。包丁を使わない日はない、といっても過言ではないだろう。
しかし、私は「切れすぎる包丁」が怖くて仕方ない。洗い物をしているときなどに、さっと手が触れただけで、皮膚が裂け、じんわりと血が滲みだすほどに切れる包丁が怖いのだ。

もちろん、包丁の切れ味ひとつで、素材を殺してしまうという夫の言い分も、ある程度は理解している。すぱりと切れた断面が、ギラギラと鈍く光っている刺身を見ると、素材をいためることなく調理されたんだと感動すら覚える。ひと切れひと切れの角がピンと尖っていて、見ていて気持ちが良いし、食べる前から美味しそうだ。

魚釣りが趣味の夫は、「釣ってきた魚をできる限り美味しく食べたい」という。そのためには包丁にも拘りたいのだと。魚をさばくときに出刃包丁が必要になるのは仕方ないことだと思う。しかし、スーパーで買ってきたサーモンの柵を、わざわざ刺身包丁を使って切らなきゃとは思わない。けれども夫は「せっかく刺身包丁があるんだから使わなきゃ」とイソイソと取り出しては刺身だけを切り、満足気な表情をしている。手巻き寿司にしようとサーモンと一緒に購入したアボカドについては皮の剥き方は分からないからと、放ったらかしだ。

拘りたいところは、人によって違う。私は料理を全部一気に仕上げたいのに、夫は一品作れば満足なのだろう。一品だけでは、腹は膨れないと分かっているにも関わらず、だ。

刺身包丁を使ったあとは必ず包丁の手入れをして仕舞う。道具を大切に扱うところを、私は見習いたい。けれど、「ついでにいつも使ってる万能包丁も研いでおくよ」と言われると、いつも困る。切れ味の鋭すぎる包丁は、普段使うには怖くてしかたない。

料理中に失敗して、手を切ってしまったことはある。けれどもザックリ手を切って、病院へいかねば、というほどのケガをしてしまったことはない。そうだとしても、切れ味の鋭すぎる包丁への恐怖感が強いのだ。

私がいくら怖いと訴えても、夫は包丁を研ぐのが好きらしく「もっと包丁を研ぎたいなぁ」と、研ぎあがった包丁の刃をみてはにやにやしている。

誕生日に何がほしいかと夫に質問したところ、私が使用している万能包丁を研がしてもらえないためか「自分専用の、万能包丁がほしい」と言われた。三十九歳の誕生日に万能包丁を欲しがるなんて、ちょっと不思議な気もするけれと、これを機にいろいろと料理をしてくれるようになるとありがたい。包丁と一緒に、料理本でもプレゼントしようかと思っている。

もっとも、夫は料理をしたいのではなく、包丁の手入れがしたいだけなのかもしれないのだけれど。

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