切る、干す、イモを植える。もっと強くなるために冬を思う 【つくり手であること】
毎度ながら冬の暮らしの仕事はなかなか地味です。しかし寒さに反比例するかのごとく豊かな食で溢れているため、もう地味かどうかなんてどうでもよくなるほどの充足感。今日のコラムは、冬の食の手仕事についてご紹介します。
秋には柿を干したことを書きましたが、
約1ヶ月後、それはそれは濃厚な旨味に満ちた、おいしい干し柿になりました。
干し柿を開いて柚子皮を巻き込み、スライスしたら茶色に黄色のうずまき模様がかわいいお茶うけをつくったりしてます。
こうして並べると本当に地味なんだけど(笑)嬉々としてやってしまうのです。
また、寒さが進み大根が採れはじめたら、切って干して、せっせと切り干し大根づくりを繰り返します。
ひら干し派?ガーランド派?
もしかしたら大根そのものよりも切り干し大根が好きかもしれない、と思うくらい、冬になると何回もつくります。「そんなに作るほど食べるもの?!」と友達に驚かれましたが、腐らないし、そのままでも食べるし、本当に便利。わたしは出張のときも、新幹線の中で切り干し大根をおやつに本を読んだりしています(笑)俗にいう乾き物、スルメイカみたいな活用ですけど、別に近くの人に迷惑になる香りもないし、ポテトチップスを開けたら瞬間的に食べ尽くしてしまう私のような人にはぴったりのおやつだと思うのです。
お味噌汁を作る時にちょっと使えばいい出汁がでるし、ガーリックを効かせたオリーブオイルと唐辛子で炒めてペペロンチーノ的にするのも好きだし、醤油の代わりにコンソメやブイヨンで煮るのもおいしい。もちろんお店で買ったら早いけど、こんなにたくさん大根があるんだから、切って干して作るのが習慣になりました。
作り方は、薄く細く刻んでザルなどに並べて平干しにするか、短冊型にスライスした大根を紐などに通してガーランドみたいにするか。人それぞれだと思いますが、ウチは毎年色々試した結果、その両方の合わせ技がいい感じだな、と気に入ってます。
最初は、生の大根をスライスして短冊形にして、紐に通し、2〜4日干す。あらかた乾いてきたらハサミで短冊を切り離して細い1本ずつにして、今度はザルの上でまた1〜3日干したら完成です。
オススメしたい、菊芋長者
続いてこちらは今年ウチの家庭菜園で採れた菊芋。
菊芋はすごくたくさんできるので、植えたのは、たった2つです。この写真で手に持ってるくらいのサイズのタネ芋を2つ植えただけ。そのうち片方だけを掘ったら50〜60個は余裕で出てきました。
それほど土壌がいいとは言えない我が家の畑で、肥料も何も入れず、本当に放置だったというのにこれだけ豊作とは。菊芋の強さ、改めてすごい。
菊芋はイモと名がついているもののキク科で、でんぷんもほとんど含んでいません。また、食物繊維が豊富なので腸内環境や血流改善といった健康効果も注目されてきました。デトックス効果の高いお茶とかも作られていますね。
菊芋を掘ってると何十回も「え、まだあるの?」とひとり言をくり返すくらいどんどん出てくるんですけど、今年はなんだか掘り出しながら、えも言われぬ安心感みたいな気持ちが込み上げてきました。
コロナ禍となり、経済は先細り、政治は絶望的な今、ことばに出来ないうっすら(またはどんより)とした不安を心に抱えた人は多いと思うので、不安をかき消そうと思って闇雲に何かをするくらいなら、菊芋ひとつ植えた方がいい、とまで思うほど。
やや極論ですが、でもそのくらい、エンドレスかのごとく食べ物が土から現れるときの安心感は、誰かに「大丈夫、だいじょうぶ」と言ってもらえてるような気持ちすら感じます。本当、オススメ。
興味がでてきた方はぜひ、次の3月に菊芋を植える、と手帳に予定を入れましょう。
↑思いつきでやってみたら好評だったのがこちら。洗って刻んで塩もみして、オイルとレモンで合わせたキャロットならぬ菊芋ラペ。
愛の言葉は「イモ植えた?」
そんな菊芋がもたらす安心感について考えていたら、思い出したことがありました。
新型コロナによる自粛が深刻化し始めた今年の3月頃、政府からの一律給付金が出るか否かという時に電話してきた母の一言です。
ご記憶ですか?こともあろうかパンデミックに及んでも利権を優先しようとした日本政府は、国民に現金ではなく「お肉券」とか「お魚券」なるものを配ろうとしたわけですが、あの時きっと「そんな紙切れ腹の足しにもならんわー!怒」と思った人も多かったことでしょう。
我が母も同様で、半ば呆れた調子を含みながらも、お肉券なんかを待つよりじゃがいもを植えて自分たちで飢え死にしないようになさい、と言っていたのでした。
パンデミックだろうとなんだろうと、例年同様にタネをおろす。そうすれば半年後には食べ物に変わるから、と。
いやはや、さすが田畑と共に生きる民には底力があります。
樹に実る果実も、土の中で育つ根菜も、自然はすでに与えてくれているのでした。
厳しい冬こそ、じっくりジワジワ、強さを蓄えるイモのような強い人間でありたい、と思うのでした。
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映画監督松井久子が編集長となり、生き方、暮し、アート、映画、表現等について4人のプロが書くコラムと、映画づくり、ライティング、YOGA等の…
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