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フランダースの犬とルーベンス

フランダースの犬、というアニメ番組がありました。随分昔のアニメですから知らない人もいるかもしれませんが、主人公のネロと愛犬のパトラッシュがアントワープの大聖堂のルーベンスの大作の前で天に召される最終回に涙した人も多いと思います。

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そのルーベンス、画家であるとともに多言語を操る外交官でもありました。ルーベンスはいくつもの大作を残していますが、何人もの職人を雇い、大規模な工房で制作していました。
ベルギーのアントワープには、住居兼アトリエだったルーベンスの家が残っており、当時の工房の様子を想像することができます。

ルーベンスの工房は、当時から広く知られていることと思っていましたが、ある本に面白い記述がありました。

「後年のルーベンスのもとには、絵の依頼が殺到するようになっていた。そこでルーベンスは、ある方法を考えだした。自分の大きなアトリエに数十人の優秀な画家を雇い入れたのだ。1人は衣服の専門家、1人は背景の専門家、また1人は、といったぐあいである。そして、長大な生産ラインをつくりあげ、そこに多数のキャンバスを置いて、何点もの作品の制作が同時に進むようにした。
大切な顧客がアトリエにやってくるときには、雇い入れた画家たちに1日のひまをだして追い払った。顧客がバルコニーから眺めてるあいだ、ルーベンスは驚くほどの静けさのなか、信じられないほどの集中力を発揮して仕事していた。顧客はみな、この桁外れな画家に驚嘆しながら帰って行った。これほど多くの傑作をこれほどの短期間で仕上げられるとは
(権力に翻弄されないための48の法則 ロバート・グリーン バンローリング出版)

真偽のほどは分かりませんが、これが本当ならさすが辣腕の外交官だっただけのことはあります。

画家ルーベンスという名前は、子供の頃からしっかり私の記憶に刻み込まれていましたから、ベルギーに行ったら、まっさきに訪問したいと思っていた場所でした。

フランダースの犬のアニメに影響を受け、その「聖地巡礼」をする日本人は多いようで、大聖堂内にあるパンフレットは、日本語版が最も多く用意されていました。

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ところが、この物語はベルギーではあまり、というよりほとんど知られていません。ベルギー人の同僚に話しても、誰も知らず、貧しい少年と白い犬がルーベンスの絵の前で天に召されて、と一生懸命説明しても、「テレビの影響で多くの日本人がアントワープを訪れる」ことが謎のようになっていました。

ベルギー人からすると理由は分からないものの、多くの日本人観光客が訪れることから、ネロの家があったと思われるアントワープ近郊のホーボケンには、写真のようなネロとパトラッシュの銅像が建てられています。探しに探して見つけましたが、その達成感と同時に、なんだか味気ない場所にあるものだと複雑な気持ちになったものです。

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