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アートフェア東京に行って、忘れ去っていたことが蘇る 「ザ・ゲート」

クリスト&ジャンヌ=クロード。2005年2月から3月にかけニューヨークのセントラルパークに、鮮やかなサフラン色の布の門を設置したアーティストです。

アートフェア東京で、西川茂氏の作品を見て突然思い出しました。

アートフェアの紹介文にはこうあります。
「西川氏は、クリスト&ジャンヌ=クロードの活動に自作との共通性や似て非なる要素を見出しており、昨年クリストが他界したのを機に、彼らへのオマージュとなる新しいシリーズの制作をはじめ、今回のアートフェアでそれらを中心に発表した」、と。

2009年にジャンヌ=クロードが、2020年5月にクリストが他界しました。2人はベルリンの国会議事堂やパリの橋を包み込んだ芸術家です。

西川氏の作品を展示するコーナーは入口直ぐのところにありました。

2人へのオマージュとなる新作だと聞き、写真の黒とオレンジ色を背景とした馬の作品を見て、記憶の奥底にあったものが一気に蘇りました。

ザ・ゲート。当時、セントラルパークの近くに住んでいた私は、週末は冬でも公園内を散策していました。

オレンジ色の棒が徐々に設置され、そこにオレンジ色の布がかけられていきます。2月のセントラルパークは、残雪があり、木々はまだ芽吹く様子もなく、日差しがやや高くなってきてもまだまだ寒く、それでいて確実に春の到来の兆しがここかしこに現れます。

そんな冬のセントラルパークに設置された鳥居のようなオレンジ色の棒と布は、自然の営みではなく人工的な春の到来の兆しのように当時は思ったものです。

新聞で、これが市当局の協力なく2人が私財を投じたアートだと知り、NYにはとてつもないことを編み出す芸術家がいるものだと、驚きました。
NYでは奇想天外なことは他にもありました。例えばロックフェラーセンターの広場にビーチバレーの施設(砂も)を作って朝からビーチバレーをする、同じ広場にボクシングのリングを作って朝からボクシングをする、バーのカウンターの壁面に水槽があり人魚に扮した女性が泳いでいる、などなど。

エンターテイメントの話題には事欠かない都市ですが、このセントラルパークでのアート作品はそれらを超越したものでした。

今でも多くの現代アーティストがNYで活躍するのは、NYにはインスピレーションを受ける魔力をもつDNAがあるからなのでしょう。

当時は、ザ・ゲートについて「途方もないことをやるなあ」というありふれた印象でした。それを思い出すこともありませんでした。
しかし、西川氏の作品を見て一瞬のうちに思い出したのは、ザ・ゲートから何か強い、心の底に植え付けられるような潜在的な印象を自分でも気がつかないうちに受けていたからでしょう。

これがアートの力か、と改めて思い知りました。

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