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「ハーメルンの笛吹き男」は組織論・リーダー論に通じる

ハーメルンの笛吹き男、子供達を引き連れてどこかに消えていった話は誰しも読んだり聞いたことがあると思います。
阿部謹也氏の本では、その謎の諸説に氏独自の視点から迫っていきます。
それはそれで面白いのですが、私は組織運営の視点でずっとこの話に興味を持っていました。
それは、1人のリーダーの判断・指導次第で、組織はとんでもない方向に向かってしまう、というリーダーにとっての戒め、としてです。
Noteでフォローしている方の笛吹き男の記事を読んでそんな思いが蘇り、阿部氏の本を読んで、何か書いてみたくなりました。

リーダー論、組織論、そんな堅苦しいことの前に、ハーメルンについて記載します。

欧州駐在中、ハーメルンはぜひ行ってみたいと思っていました。それは、この話の特異性に惹かれたということもありますが、左記のようにリーダーの戒め的、組織論的なことに通じる話だと思っていましたので、その舞台をぜひ見てみたかったのです。

ハーメルンには車で行きました。城壁跡と思われる町を取り巻く環状道路から町中に入り、ショッピングセンターの駐車場に停めました。そこから中心地には歩いて10分ほどです。

町中

町自体はそれほど広くはなく、観光としての見所は中心部にあり、歩いて見て回ることができます。その日、宿泊はしないで町中を散策しました。ドイツの他の都市とさほど変わらない街並みですが、至る所でネズミ関連のお土産を売っていることはハーメルン特有な点です。
ネズミ捕りの男がネズミを退治して、報酬が得られず笛を吹いて子供達を連れ去った、という物語からするとネズミ関連のお土産は自然なことでしょうが、写真のような木製のネズミのおもちゃは自宅に置く気になれず買いませんでした。

お土産の木製のネズミ

阿部氏の本を読んで、原典となる諸説に興味を持ちましたが、東方への移住説がもっともしっくりきました。詳しくは氏の本に譲り、組織論・リーダー論の観点からは、現代社会のどこにでもあることの寓話のように読めます。

1人の組織のリーダーが導く方向に従っていたら、とんでもない結果になったことはよくあることです。そのリーダーの指導を阻止できなかった組織内部の人や周囲の人の反省の言もよく聞きます。

リーダーの指導力が強ければ強いほど、その組織の中の人は、催眠術にかかったように付いていってしまうことでしょうし、周囲の人は異論を言うことができなくなります。
それを防ぐためには、組織の中の人が声を上げることができる仕組みや組織風土と、外部の人によるリーダーに対するチェック機能が働いていることが求められます。
前者で言えば、内部通報制などが機能としてはありますが、1人1人がリーダーの指導に盲従するのではなく、「個」として意見をしっかり持ち、組織に頼らないスキルとバリューを持つこと、自由に意見を言える組織風土の醸成が求められます。しかし、これは一朝一夕には実現することは難しいと思います。組織風土を変革することは至難のことですし、外部から来た人が変革するには1000%のエネルギーが必要になることでしょう。
リーダーが自己を見つめ直すきっかけとして、360度評価がありますが、強いリーダーはその結果を一蹴してしまうことでしょう。

後者については、コーポレートガバナンスがあり、会社で言えば社外取締役によるチェック機能があります。社外取締役は常時経営トップを監視することはできませんが、社外取締役がいるというだけで経営トップには無形のプレッシャーになり、独断専行を防ぐことができます。
もっとも、株主会社で言えば、株主がその最たる役割を担うのが資本主義ですが、1株主が経営をチェックすることは現実的ではないので、株主に代わって社外取締役がその役割を担うことになります。

日本ではコーポレートガバナンスコードの改訂により社外取締役の比率を高めることが企業に求められており、社外取締役の責務が従来より重くなってきています。

ただ、前述のように経営トップにとっては社外取締役の監視はプレッシャーになりますが、日常的ではありません。結局は、組織のリーダーが、組織を迷わせるような判断をしないように自分自身で考えて考え抜くことが求められます。リーダーは自分で判断しないといけないですし、相談する相手も限られるので孤独ですが、判断する上でのしっかりした軸を持つ必要があります。

リーダーが笛吹き男になっていないか、とチェックするのは周囲の役割ですが、自分が笛吹き男になっていないか、と常に自戒する習慣をリーダーは持つことが必要です。

「ハーメルンの笛吹き男 ちくま文庫 阿部謹也」

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