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「美学」 カントの入門書

アートに接する機会が増えるにしたがって「美」への関心が高まってきました。手にしたのはカントの「判断力批判」。難解過ぎて挫折気味です。そこで仕切り直しとして手に取ったのは、小田部氏の「美学」です。

冒頭から強烈な一文です。
人文系の学問において、最良の入門書とは、平易に書かれた解説書などではなく、その学問の古典である

その後に慰められる文章が続きます。
美学にとってカントの『判断力批判』こそ古典の名に値する書物である、と私は考える。おそらく多くの美学研究者もこのことに同意するであろう。しかし同時にまた、この書物を読もうとして挫折した人も多いはずである。本来最良の入門書でありうる古典中の古典が入門書の役を果たせないでいる

冒頭の一文には共感します。例えば、哲学を学び始める際に「哲学入門」というような書物を読むよりは、1冊の古典的な書物を精読したほうがいいと思います。その書物から湧いてきた疑問を解きほぐすために次の書物を読んだり、別の哲学者の書物を読んだりすることで、好奇心をもって哲学の森に入っていくことができます。だからといって「入門書」を読まないのではなく、上空から森を俯瞰し、自分の思索を整理するには有益だと思います。

しかし、カントについては「カント入門」という類いの書物に手を出したくなるほど難解です。カントの森に入ろうとするものを拒絶するかのようです。
小田島氏の「美学」は、入門書・解説書というには400ページを超すぶ厚い本であり、決してソファに横になって読むようなものではなく、きちんと机に向かいマーカーとポストイットを持って1行1行を精読しなければ理解できない本ですが、「判断力批判」の最適な道先案内人です。

それは、まず小田島氏が「判断力批判」が入門書の役を果たせないでいる要因を3つ挙げ、その要因を除去するように著しているからでしょう。

3つの要因とは、
「カントが言葉を端折り十分に意を尽くさずに議論を進めているため、議論の道筋の追いにくい箇所が散見される」
「公刊されるまでの美学史的な背景が分からないと議論の焦点を見定めることが難しい」
「展開されている議論と今日の美学理論との接点がなかなか見えてこないため、カントの理論は博物館に陳列された過去の遺産のような印象を読者に与える」

学習する者の目線での分かりやすい要因分析だと思います。

小田島氏の「美学」は、「判断力批判」を読んでみようとさせてくれる本ですが、「判断力批判」を理解できたと錯覚させてくれる本でもあります。

蛇足ですが、岩波文庫の「判断力批判」は文字が小さくこれだけで読書意欲が落ちてしまいます。「実践理性批判」のようにKindleで読めるようにしてほしいものです。

参考文献
「判断力批判(上下) カント 篠田英雄訳 岩波文庫」
「美学 小田部胤久 東京大学出版会」


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