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西行を詠んで  心に迫る歌々

願はくは花のもとにて春死なんそのきさらぎの望月のころ

こう歌った西行は、1190年2月(きさらぎ)に歌の願い通りの時節にその生涯ととじました。

実際には時世の歌ではなく、亡くなる十数年以上前の詠作だそうです。西行は和歌愛好家の中では多少は知られていたようですが、西行を有名にしたのはこの歌のとおり2月に入滅したことが大きく人々に深い感銘を与え、没後に成立した「新古今和歌集」に最多の94首が選定され、今日に至るまで日本文化に影響を及ぼしてきました。

西行は23才のときに妻子を残して出家し各地を旅して歩きます。西行は裕福な一門の出であり、西行自身にも所領からの収入があり、ぼろ着をまとい質素な放浪の旅ではなかったようです。
ただ、家族がある青年が世を捨てて隠遁するのにはよほどの思いがあったことでしょう。そのためか西行の歌々、そのすべてではありませんが、にはどこか愁いが通底し詠んでいると心に迫るものがあります。

万葉集の素朴さ、古今和歌集の宮廷文化の雅さ、とは違いどことなく陰鬱な印象を受けます。陰鬱といっても暗いのではなく、魂からからさらっと詠み上げたような感じです。

百人一首には次の歌が載っています。

「なげけとて月やはものを思はするかこちがほなるわが涙かな」

西行には「願はくは」のような心に浸みる秀歌が多いにも関わらず編纂者の藤原定家がなぜこの歌を選んだのかは分かりませんが、この歌にしてもどこか愁いな感じを受けてます。

最後に山家集の中で私が気になった歌を記しておきます。

「雲なくておぼろなりとも見ゆるかな霞かかれる春の夜の月」
「雪降れば野路も山路もうづもれておちこちしらぬ旅の空かな」
「花も枯れ紅葉も散らぬ山里はさびしさをまた訪ふ人もがな」
「吉野山花の散りにし木の下にとめし心はわれを待つらん」

「山家集 西行 宇津木言行 校注 角川ソフィア文庫 電子書籍」
「百人一首 大岡信 講談社文庫 電子書籍」

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