見出し画像

旅も好きな仕事も諦めない!伊佐知美さんに聞く持続可能な旅のつくり方

欲張りな私たちはいつだって夢を見る。たとえば、世界中を旅したいし、好きなことを仕事にしたい。

でも、同時に夢を叶えるなんて、きっと選ばれた人にしかできない生き方。私にはできっこない。そんなふうに心のどこかでブレーキをかけてしまっているのは、この原稿を書いている私ひとりではないはず。

今回は、夢を全部叶えるためのヒントを得るために、ライター・編集者・フォトグラファーと好きな仕事をしながら、世界中を旅する伊佐知美さんにお話しを伺いました。お話しを伺う前は、才能があるから旅も夢だったライターの仕事も両立できたのだろうなと思っていたのですが、夢を叶えるまでには一歩一歩積み重ねていった小さな努力がありました。

それでは、伊佐さんが世界で撮影してきた写真とともに、旅とライターを両立させるためのヒントを集めていきましょう!

伊佐 知美
ライター、編集者、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県生まれ。幼少期を中国・上海で過ごし、海外に興味を持つ。三井住友→講談社→Wasei→フリーランス。大学卒業後、一度は金融機関の総合職として就職するも「書くことで生きていく」「長い旅をする」夢が諦められず、1本500円の兼業ライターからスタート。日本一周、世界二周、カナダ、フィリピン、マルタ、イギリスなど各国の語学留学や多拠点居住しつつの「仕事×旅」の移動生活を経て、現在は沖縄・東京の2拠点暮らし。移住体験者の声をまとめた『移住女子(新潮社)』の著者でもある。

1.旅とキャリアも欲張りに!伊佐知美さんってどんな人?

ーーライター、フォトグラファー、編集者……と、現在伊佐さんはさまざまな肩書きで活躍されていますよね。

ライターとフォトグラファーを軸にしたスキルと、大好きな旅をかけ合わせてお仕事をしています。実は、先日スペインでの仕事を終えて日本に帰ってきたばかり。明日からはハワイでお仕事なので、この取材が終わったら急いで荷造りしなきゃ(笑)。

現在、暮らしの拠点は彼と猫たちが待つ東京の家と、沖縄の2カ所。2016年から世界一周の旅に出ていたのですが、世界中を回って暮らしの拠点にしたいと思った沖縄に2020年から住み始め、この夏には沖縄を拠点としたSomewhere & Hereという会社を設立しました。

ーー「Somewhere & Here」という社名の意味は?

「どこか」と「ここ」を行ったり来たり。つまり、世界中と日本の拠点を行ったり来たりして、海外で見つけたお気に入りの雑貨やハンドメイド品をオンラインショップで販売したり、文章を書いたり、写真を撮ったりしたいと思っています。私がこれから先もずっと、この地球で自由に歩いていくための「箱」のようなものです。

ーー仕事と旅を両立させている伊佐さん。伊佐さんにとっての「旅」とはどのようなものですか?

幼少期に父の仕事の都合で中国に数年住んでいたことがあるんです。その時の刺激が忘れられなくて、将来は海外で暮らしたり、留学したりするんだろうなとずっと思っていました。

また、私が働き方や生き方に憧れる人たちは、みんな世界中を自由に旅をして回っているという共通点があって。人生のありたい姿を考えたときに、旅に出なければ話が始まらないと思っていたんです。旅をしたことのある私として、キャリアを作っていきたかった。

ーーまずは旅に出ないと、理想の生き方もキャリアも実現できない、と。

そうなんです。だから自然と、旅をしながら働く方法を考えるようになりました。学生時代、村上春樹さんがイタリアやギリシャを旅しながら小説を書いていたときの紀行本「遠い太鼓」を読んで、私も旅をしながら書きものをしたいと憧れて。たとえばクロアチアのドブロブニクのような場所で、私も原稿を書いてみたいと夢見ていました。

--しかし、大学を卒業後は金融機関の営業職として働き始めています。旅をしながら文章を書く仕事とはかなり違うような……。

本当は出版社で編集の仕事に就きたかったのですが、まったく受からなくて(笑)。また、私が就職活動をしていた当時はリモートワークも一般的ではなかったですから、普段は会社員として働いて、長期休みに海外に行くことで旅がしたい気持ちを満たそうとしていました。

でも、行程や帰る日が決まっている旅行だと心が満たされなくて……。私にとっての”旅”は無期限で帰りの決まっていない片道切符。自由気ままに行きたい場所へ行く、暮らしに近いイメージだと気付いたんです。

2.旅とキャリアを両立させるまで

ーーそこから旅とキャリアを両立させるまでの道のりを教えてください。

夢の実現のため、まずは書くことを仕事にしようと金融機関を退職し、事務職として大手出版社へ転職しました。でも、結局そこで書く仕事はできなかったですね。最初は編集じゃなくても、希望し続ければいずれ異動できるのではと期待して入社したのですが、あとから編集部への異動は難しいと知って。

それでも書くことを諦められず、事務の仕事を続けながら副業でライターを始めました。最初に書いた記事は1本500円。今考えるとすごく安かったなと思いますが(笑)、自分の書いた文章で初めてお金を稼げて、すごく嬉しかったことを今でも覚えています。

それからしばらく副業でライター業を続けていたところ、知人から新しく立ち上げるメディアの編集長のオファーをいただいて。やっと書くことを本業にすることができました。

ーーまず、書く仕事の夢から実現させたのですね。旅の準備は、仕事の土台を整えてから始めたのですか?

そうですね。書きながら旅をするには、リモートワークを認めてもらわなきゃいけない。でも、この当時(2016年)もリモートワークは一般的ではなかったので、まずは勤めていた会社の代表に交渉しました。

それから、いきなり海外からリモートワークではなく、初めは自宅の近所のカフェで試してみることに。そして、国内出張の延長で仕事をしてみたり、海外旅行先で仕事してみたりと、少しずつ範囲を広げていきました。

ーーたしかに、少しずつリモートワークの範囲を広げることで、いきなり海外でリモートワークをするより会社も自分も慣れていけそう。

ただ、世界一周に行くときは、期間が長過ぎるからさすがに会社を辞めなくてはいけないなと思いました。でも代表は「一緒に辞めなくてもいい道を探しましょう」と言ってくれて、結果的に会社を辞めずに旅に出ることができたんです。

やっと世界一周へと旅に出ることができたのは、29歳のとき。いざ、行程も行き先も決まっていない理想の旅に出てみると、本当に毎日が楽しくて!

ーー海外ではどのようにお仕事をしていたのでしょうか?

日本にいるときに取材して執筆は海外でしたり、時には海外からオンラインで取材に参加させてもらったり。当時はオンライン取材はめったになかったので、周りのみんなの理解や協力があってできたことだと感謝しています。

あとは、仕事とは別に訪れた国ごとに移住している日本人女性を探し、見つかったら依頼書を作ってアポをとり、インタビューする自主企画を行っていた時期もありました。

ーー現地で取材相手を探して、取材までしてしまう……すごい行動力ですね!

今思うとかなりマッチョな行動力でしたね(笑)。Instagramやnoteで旅の様子を文章や写真で綴って、それをポートフォリオにして。でも、その自主企画がきっかけでメディアから連載記事執筆のお声がけをいただいたり、海外取材のご依頼をいただいたりする機会が増えたんですよ。

ーー現在ではインタビュー記事だけでなく、旅に関するエッセイやコラムもたくさん書かれていますよね。「伊佐さんに書いてほしい!」と仕事が集まるようになったきっかけはありますか?

自分の名前で文章を発信していたことと、自分の世界観を伝える場所を作っておいたのが大きいのかも。

特に、noteでの発信はすごく役立ちました。旅の出来事をいつまでも覚えていられるように、体験したことや感じたことを、その時の自分が表現できる100%の言葉でnoteを書いているんです。

すると、そのnoteを見てくださった方から「伊佐さんのnoteの雰囲気で旅のエッセイを書いてもらえませんか?」というような依頼が増えていったんです。

そこから少しずつ、旅に仕事を持ち運んでいたフェーズから、旅自体が仕事になっていきました。

3.「旅と仕事を両立する」の夢を達成しても続いていく日常

ーー長年憧れていた、旅をしながら文章を書く夢が理想の形で叶ったのですね。

ドブロブニクに辿り着いたときは、感動で胸がいっぱいでしたね。想像よりも綺麗な景色を前に、自分の本の原稿を書いて。ずっと夢見ていたことが叶った瞬間でした。その後も私はずっと夢見ていた国や景色を旅し続けるのですが、憧れすぎていたペルーのマチュピチュなんかは、もはや行くのが怖くて。なんでかというと、夢が全部叶ってしまうと、空虚に近づいていく気が今度はしてきたんです(笑)。人間ってわがままですよね。

ーー夢が叶ったのに、不安や寂しさがあったのですか?

遠い国に行けば行くほど、「このまま進んでも日本が近くなるだけだ」と、寂しくなる瞬間があったんです。日本から遠く離れた国の文化や歴史に触れることで得ていた新鮮な感動が、旅をすればするほど鈍化していく。旅は私の人生の目的で、一番の楽しみでもあったはずなのに。

ーー非日常が日常になってしまったんですね。その寂しさ、わかる気がします。

いつまでも旅にワクワクしていたいから、移動を繰り返す旅から、ひとつの国にしばらく暮らしてみるスタイルに変えてみました。

そうしたら、精神的な「よりどころ」を求めていたことに気付いたんですよね。昔の私は拠点を持たない不安定さにワクワクしていたけど、今の私は拠点があるほうが旅を楽しめるなって。

日本にちゃんと拠点を持って、旅と暮らし、日本と海外を行ったり来たりしたい。そうすることで、旅も暮らしもより色鮮やかになっていくはず。それを実現可能とするために立ち上げたのが、Somewhere & Hereなんです。

夢が叶ったあとでも、新しい夢を紡げるんだと教えてくれたのも“旅”でした。

ーー旅でいろんな変化があったのですね。そのほか、旅を通じて人生観がガラリと変わった出来事はありましたか?

マレーシアでの出会いですかね。マレーシアでは安宿に泊まっていたのですが、現地で出会った方から「そんなところに泊まっているなら、家に来たら?」と、自宅に招待していただいて。結局、1週間も泊めてくれたんですよ。

どうやってお返しをしようかと悩んでいたら、「私じゃなくて、次に出会った人に親切にしてあげて」と言われたんです。私も自分の後に続く人に何かを残せるような、そんな生き方がしたいと思うきっかけになりましたね。

ーー後に続く人に何かを残すとは?

私は文章を書くとき、「誰かの気持ちが楽になるように」と手紙を綴るような気持ちで執筆しているんです。そう思うようになったのは、この出会いがきっかけだったと思います。

4.誰にだって、旅はできる!

ーー世界中を旅しながら好きな仕事をする姿、とっても憧れます!とはいえ、仕事や家族の都合で、国外の旅はハードルが高いという人も多いはず。そんな人たちでもすぐにできる旅はありますか?

大学生の頃に、友達とふたりで各駅停車を乗り継ぎ、京都まで行ったことがあるんです。そのとき、「私、どこまででも行ける!」と無双感があって(笑)。

何が言いたいかというと、その「ワクワクした心」そのものが旅なんじゃないかなと思うんです。各駅停車で少し遠いところにいく以外にも、いつも通らない道を歩いてみるとか、初めてのカフェに行ってみるとか。いつもとは違うことをすると、新しい発見がある。新しいことに触れると、自分自身のこともわかっていく。

この過程だって、立派な旅だと思います!

5.やれない理由探しより、やれる理由探しを

ーー最後に、伊佐さんのように旅も暮らしも豊かにしたいけど、一歩踏み出す勇気がない……という読者にひとことお願いします。

まず、できない理由を探すより、できる方法を探してみてください。

世界一周や長期間の旅へ行くのは勇気が入りますよね。だけど、今の暮らしを捨てないといけないとか、仕事を辞めないといけないとか、大きな決断をしなければ、自由な生き方が実現できないのかというと、きっとそうではない。

例えば、まずは近場のホテルに週末宿泊して、そこで仕事をしてみる。急に大きな決断をするのではなく、できそうなことから始めてみて、自分にその暮らし方が向いているかトライアル期間を設けてみるんです。一歩踏み出してみて「もっとしたい」と思ったら、もう一歩踏み出してみる。お試し体験を自分にプレゼントしてみると、理想の暮らしを実現するために今できることも、少しずつ見えてくると思いますよ。

ーー欲張りですが、キャリアに迷っている読者にもひとことお願いします!

自分の理想の仕事と、今の仕事が違ったとしても、今と未来をつなぐその線上にあるものを自分がきちんと選んでいけたら、きっと理想に近づいていけると思います。

私、もともとはエッセイを書きたかったんです。だけど、最初からエッセイを仕事にするのは難しかったので、まずはその線上にあるインタビューの仕事を重ねていきました。そうしていくうちに、その線をたどってエッセイの仕事をいただけるようになったんです。

たどり着きたい未来があったとして、そこまでにどれだけのステップがあるのか、どの道を選ベばいいのかは、誰にもわからない。だからとにかく、未来につながっているであろう目の前の仕事を、精一杯やる。そうすると、絶対に誰かが見ていてくれていますから。

ーー伊佐さんのように、「あなたにお願いしたい」と言われるにはどうしたらいいでしょうか?

仕事に自分の色を入れるといいと思います。私の場合は、情景や色などのエッセイに出てきそうな言葉でも、インタビューにも組み込んでみたりとか。文章でも、それ以外のことでも、きっとあなたにもあなたにしかできない表現があると思うので、探してみてくださいね。

ーー伊佐知美さん、お話ありがとうございました!

「二兎追うものは一兎をも得ず」とはいうけれど、二兎を追ってみないと二兎を得る可能性もないんですよね。夢に正直に努力を重ねていく伊佐さんの姿を通じて、一歩を踏み出したいけれど勇気がでない……と思っているあなたの背中を少しでも押せたら嬉しいです。

(文:班目美紀 編集:仲奈々 写真:伊佐知美


この記事が参加している募集

この経験に学べ

仕事について話そう

いただいたサポートは今後の創作費に充てさせて頂きます。インタビューとか取材とかしたいなぁ…♡