タイムリミット

君は料理ができない。粉もんは粉はふるわないし、鮭は塩抜きを知らないので青臭くて食べられたものじゃない。

君は食器も洗えない。時間をかけて食器を撫でている。君が帰ったのを確認し、こっそり茶渋の残ったコップを洗い直す。

君は僕のことを、体たらくな可哀想な男だと信じ、下手な料理を与えたりコップを洗ったりして満足げにしている。

君を嫁にもらったやつは大変だ。と思いながら、ふとその相手が自分ではないことに気づく。

心の綺麗な人間の近くにいることは、ずるい男にとって心地よかった。彼女の見る透き通った世界に触れると、自分までその世界の住民になれたようだった。

キッチンに居る君の残像にハグをする。普段しないような荒っぽいキスをする。不思議そうに見つめる君が不甲斐なくて、もう一度ハグをする。

あと半年。君の純情を蝕んでしまう前に。ずるい男は逃げるのだ。

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