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かもめ

私は醜聞の市民である。
噂やらゴシックやらが大好きなのである。自分自身は誹謗中傷をする勇気もないくせに、人が書いた誹謗中傷を読んで、
「ああ、人間のクズだね、こんなことを書く奴は。
クズのくせに、立派な人を中傷するんだもんな。
自分のことを棚に上げてっていう見本だもの。
恥ずかしいなあ。
僕にはそんなことできないなあ」
なんてことをぼやいて、人のクズさをあざ笑うのである。

私は子供の親である。
こんなどうしようもない私に子供たちは寄ってくる。
私の寝床は子供たちが寄ってたかるため、
三角形の領分しかない。
いつでも胡坐をかいて壁にもたれて眠る。
目をつぶって、寝息を立てる子供たちは崇高な猫である。
私は崇高な猫に囲まれ毎晩を過ごし、
そういうことで山頭火を思い出す。
「神の子を孕める悪魔」
それこそがわたしであろう。

私は魅力のない後ろ髪である。
誰にも引かれず、後頭部に漂う後ろ髪である。
誰かを救いたいと常々心がけているが、
この世に私に救ってもらいたい人がいないのである。
私は嫌われているのである。

私はポンチ画の画家である。
「こんなにたくさん子を生んではだか」
これが私の代表作である。
私の全てが模倣である。
私の全てが引用である。
そして、私は訴えられるだろう。

私はかもめである。
耳を澄ませて醜聞を収集し、
たくさん子を孕み、
たくさんの神の子を生みだす。
神の子が増えるたび、
私の寝床は矮小化し、
私の睡眠は妨害される。
そして、前髪は抜け落ち、後ろ髪だけになって、
未来をつかもうとするものは去り、
過去にすがる者だけが私の元に集う。

私はかもめである。
だから、はだかなのだ。
あなたもかもめである。
それが理解できなければ、
あなたは人の子を誹謗中傷する大馬鹿野郎である。

私はかもめである。
あなたもかもめである。
かもめは唖の鳥。
だからだれの誹謗中傷もしない。
それがこの世で一番すばらしい心がけだと思わないか。

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