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仏教書の修理 〜わかったようでわからない正法眼蔵〜

『正法眼蔵啓迪 全十巻』 富山祖英 著|正法眼蔵啓迪頒布會|1930年

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全10巻からなる90年前の仏教書の修理。持ち主はお寺のご住職です。ご住職がこの本に出合ったのは、数十年前のことで、訪れた仏教書専門の古書店で偶然発見し、これは珍しい本だと即購入。奥付には「非賣品」と記されています。

タイトルの『正法眼蔵啓迪(しょうぼうげんぞうけいてき)』とは、「正法眼蔵の解説書」という意味だそうで、解説の元になる『正法眼蔵』は、日本の禅宗の一派、曹洞宗の開祖・道元禅師(1200-53)が著した未完の仏教思想書として知られています。

故スティーブ・ジョブズ氏が道元禅師の思想に影響を受けていたことも有名な話。一時は曹洞宗の総本山・永平寺に出家しようとして止められたという逸話が残るほど、傾倒していたのだとか。もし正法眼蔵がなければ、iPhoneもMacBookも世に生み出されなかったのかもしれません。

約20年の歳月をかけて書かれた正法眼蔵は、道元禅師の死後、後継者らによって書写され、日本中に広まっていきました。
また、あまりに難読・難解すぎる内容であることから、これまでに数多くの解説書や翻訳書が出版されており、本書もそのうちのひとつです。

▽Before加工IMG_0455

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本を傷めている原因は、紙を綴じている針金の錆。錆によって紙がもろくなったり、汚れてしまったり、巻によっては針金が折れて本の崩壊を招いてしまっています。

まずは針金をはずし本を解体してから付着した錆を除去。取り除いてできた大きな紙の穴は、ひとつひとつ、和紙を貼って繕います。

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穴を埋めたら本文を糸で綴じ直し、見返しを新しく交換してから表紙を元に戻します。


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函も同様に、錆びた針金が中の本を傷めており、針金をはずしてから糊で接着し直し、よれたフチを表紙と同色の和紙で補強。全10巻を収納する保護ケースを作成し、修理完了です。

▽After画像7

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ちょうど修理を行っている間、ご住職による「正法眼蔵の勉強会」が開かれることを知り、参加させていただく機会を得ました。場所は、渋谷区青山の長谷寺。勉強会といっても、参加者は全員、講義の前に開講の儀式を受けることからはじまる本格的なものです。

講義のテーマは「神通」について。今日では超能力の意味合いで使われることの多い「神通力」という言葉は仏教由来だそうで、素人の私にとっては難しすぎる内容でしたが、時折ご住職がかますギャグにクスッと笑いながら、現代の暮らしにも通ずる発見もありました。

たとえば、
「言葉多きは不信のあらわれ」「裏切りは人間の性。裏切られて当然と思えば楽になる」「生活に必要なものをよく見極めること。多すぎると、埋もれ、とらわれ、迷う」
などなど、そして講義の最後は、
「わかったようでわからない、これが正法眼蔵」
というご住職の言葉で締めくくり。奥深すぎる正法眼蔵の片鱗をのぞかせていただき、大変貴重な経験になりました。



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