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分譲マンションは終の棲家たりうるのか(下)〜住み替えも容易じゃない


高まる永住志向

前回記事(「分譲マンションは終の棲家たりうるのか(上)〜建替は難しい」)でも触れたが、国土交通省の調査によれば、分譲マンション居住者の約半数が世帯主年齢60歳以上で占められている。また同調査によればマンション居住者の永住意識は高まっており、直近の調査では62.8%の人が「永住するつもりである」としている。多くの人がマンションを「終の棲家」と思い定めているのである。

国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

しかし、前回記事でも述べたように、マンションには建物の老朽化と居住者の高齢化という「ふたつの老い」が忍び寄りつつあり、そんな中で老朽化したマンションを建替えるのはなかなか難しいというのが現状である。

ではどうすればよいか、自衛策をこれから考えていこう。

住み続けるか住み替えるか

まずはザックリ考えると最初の分岐点は「住み続ける」か「住み替える」か、だ。言い換えれば「ふたつの老い」がもたらすリスクをどう見るか、ということだが、自分が生きているうちには今のマンションがそんなにひどいことにはならんだろう、というのもひとつの考え方である。現有マンションが比較的築浅だったり、あるいはもうけっこうお歳を召しておられて「先行きそんなに長くねーし」と考えておられるのであれば、今のマンションにそのまま住み続けるという選択もじゅうぶん合理的であると考えられる。

逆に現有マンションが既に竣工してからけっこうな年月が経っているとか、若手のシニア(というのも変な表現だが)の方で「残りの人生まだまだ長いよ」という方は住み替えを考えたほうがいいのかもしれない。

で、住み替えを検討する場合、選択肢は大きく3つ。①実家に住む、②売却する、③賃貸に出す、だ。順にみていこう。

住み替え① 実家に住む

実家の家がある、という方は、現有マンションを売却して(あるいは賃貸住宅として運用しつつ)実家の家に住むという選択肢があるだろう。実家がどこにあるのか、あるいはそこがどんな家なのか、さらには自分の余生の過ごし方にフイットしているか、といった要因によるとはいえ、選択肢としてはあるだろう。ただし、近年は実家がマンション(おそらく築古)という人も少なくないと思われるが、その場合は本質的な解決にはならないということは言うまでもない。

実家に適当な不動産がない、あるいは実家に戻るのは難しいという方は、現有マンションを売却して新たな「終の棲家」を確保する必要がある。その場合、別の物件を買うか、あるいは賃貸住宅を借りるか、というのが次の選択肢になる。

住み替え②-a  売却して別の物件に買い替える

まずは別の物件を購入する、つまり買い替えるという選択肢から考えてみよう。マンションの老朽化から逃れるための住み替えなので、築年数が同程度のマンションに住み替えるというのは本末転倒。従って新築あるいは築浅のマンション限定での買い替えとなる。あるいはマンションよりも権利関係がシンプルな戸建てを買う、つまり「ふたつの老い」のうち建物の老朽化については甘受するが居住者の老いは回避するという考え方もあるかもしれない。

ただ、買い替えの場合に問題となるのは資金計画である。幸い現在は中古マンションの価格が高騰しているので、売却益をある程度は期待できるかもしれないが、都内であってもかなり地域差があるという話もあるようで、現有マンションがいくらで売れるのかをまずは確認する必要がある。

あと、現有マンションの価格が値上がりしているといっても周囲のマンションも同様に値上がりしているので、その中で築古マンションを売って築浅マンションに買い替えるとなると当然築浅のほうが高価格なので、追加の資金が必要になる。ところが、シニアになると新たに住宅ローンを組むのは難しくなるので、その中で築古→築浅に買い替えるためには、今より狭い家に移るor今より都心から遠いところ・駅から遠いところに移るなど、広さや立地といった築年数以外のスペックを現有マンションよりも落とさざるをえない可能性が高いということは覚悟しておいたほうが良いだろう。

住み替え②-b 売却して賃貸住宅に住む

では、別の物件に買い替えるのではなく、現有マンションを売却して賃貸住宅に住むというのはどうだろう。現有マンションの売却益や他の金融資産、年金などを合わせて、将来の賃料を死ぬまで払っていけるという方なら、賃貸という選択肢もありだと思う。ただし、この場合に注意しなければならないのは、賃貸住宅のオーナーは高齢者に住宅を貸すのを嫌がる傾向があることだ。しかも年収とは無関係に(いわゆる高齢者の住宅難民問題)。だから、もしこの線で行く場合は、なるべく早めに(若いシニア?のうちに)賃貸住宅に入居したほうがよいかもしれない。

㈱R65「高齢者の住宅難民問題に関する実態調査(2023年)」

住み替え③ 売却せずに賃貸に出す

最後にもうひとつ考えられるのは、現有マンションを売却しないで住み替えるという選択肢だ。現有マンションを売却せずに賃貸に出して、つまり大家になって、その賃料収入で自身は別の賃貸マンションに住む・あるいは別の物件を購入して現有マンションの賃料収入で住宅ローンを返済するという方法だ。いわば現有マンションに「稼いでもらう」ということだ。これだと現有マンションが事業用資産(いわゆる投資用マンション)になるので減価償却がとれたりと節税効果を享受することも可能になるなど、けっこう良い選択肢となる可能性もある。ただし、大家業ならではの手間やリスク、賃料収入と賃料支出orローン返済が計画通りにバランスよく推移していくのか等々、単純に売却するのに比べると難易度はかなり高そうだけど。
あと、賃貸に住むにせよ別物件を住宅ローンを組んで購入するにせよ、高齢者ほどハードルが上がるのは前述のとおり。

ダンジョン化する終の棲家探し

以上を整理すると、このようなフローチャートになり、つまるところ売却するか賃貸に出すかは現有マンションの売却益というストック面に着目するか、あるいは賃貸収益というフロー面に着目するかという違いだということがおわかりいただけるのではないだろうか。

もちろんこのフローチャートは極めてシンプル化したもので、実際には今の年齢と健康状態、現有マンションの築年数、現有マンションの収益力(いくらで売れるか・いくらで貸せるか)、仕事の状況(シニアであっても働いていれば勤務地や通勤時間などから住み替えられる場所は限定される)、家族構成(シニアであっても子どもと同居していれば同様に住み替え先に制約がかかる可能性あり)、他の資産や年金などの状況等々、考慮すべきパラメーターは多岐にわたり、しかも人によって百人百様である。さらに言えば今回は検討から省いたが、老人ホームやサービス付き高齢者住宅(サ高住)、あるいはリバースモーゲージといった他の選択肢もある。

つまり一昔前の「住宅すごろく」のような、スタートがあって上りがあるというシンプルで直線的な話ではなく、選択肢が複雑に錯綜する「住宅ダンジョン(迷宮)」とでも呼ぶべき状況なのである。しかも、ロールプレイングゲームの「ダンジョン」と大きく異なるのは、余命短いシニア層にとっては、選択肢を何度も試せるような余裕はなく、おそらく手(アクション)を打てる機会はあと一回(ワンチャン?)ぐらいしかないだろうということだ。

だいたい、ここまで「住み替え」と簡単に言ってきたけれど、歳をとればいろんなことが億劫になる。引っ越しひとつとっても大事(おおごと)だし…。
やれやれ厳しい時代になったものだ。

※前編も併せてお読みいただけると嬉しいです!。

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