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■JOC幹部職員飛び込み「実名報道」是非

マスコミへの道(41)
新聞、放送、出版…マスコミ志望の方々へ


先に、東京・立川のラブホテルで殺された風俗嬢の実名報道について「名前さらされた風俗嬢 匿名か実名か」という記事を書いた。

東京オリンピック開催間近、開催決行が発表される直前というタイミングで、今月7日に日本オリンピック委員会(JOC)の幹部職員である52歳経理部長が都営地下鉄に飛び込み、自殺した。
当日のうちに、テレビ、ネットニュースは速報で、翌8日にも産経、日経など紙の新聞はこの部長の実名を報じた。「JOC部長、電車にはねられ死亡 飛び込み自殺か」。
共同通信は発生段階から名前を伏せ、ネット速報は別にして、紙の新聞では名前を出さなかった媒体も多く、報道姿勢は分かれた。

自殺については、理由が分からないため実名報道どころか、その事案そのものが報じられない、報じないことが多い。

ただ昨年は、三浦春馬(享年33)、竹内結子(同40)、芦名星(同36)ら、有名芸能人の自殺が相次ぎ、彼ら、彼女らの死を決断したその背景について様々なことが報じられた。

僕も、かつて地方支局で警察担当だった1年余りの間に、何件か警察発表で自殺現場(近くというべきだが…)に行った。中高生や銀行員だったりしたものの、有名人でもないし、遺書があったのかどうか、あったとしても警察は発表するわけでもなく、その近所をウロウロして「評判」を聞いて回った。自殺した当事者を直接知る人にはなかなか会えないし、たとえ会えたとしても、「自殺の理由は分からない」と言われるばかりで、徒労に近い取材だった。

で、支局に戻ってデスクに「分かりませんでした」と報告しても、「分かりませんじゃ、分かんねーんだよ」と悪態をつかれるだけど、因果な商売だな、と思うばかりだった…。

なんでも暴露する、スキャンダル大好き、飛ばし(誤報)もいとわない東スポがどういうわけか、「JOC 経理部長急死に沈痛 「絶対に許されない」職員たちを憤怒させた一部報道」と実名報道しているマスコミを批判しているのは笑った。というか、ここはさすが、逆張りの東スポ、というべきか。


首都圏だと、毎日のように「人身事故」で鉄道が止まるが、その多くが飛び込み自殺である。極端に長時間電車が止まればそちらのほうが報道されるものの、自殺という「事件」について掘り下げて報じることはまず、ない。さすがにそれはマスコミの最低限の節度、というべきことかもしれない。
ただ、今回のように東京五輪の開催是非が大きく関心を集める中で、その中心にある組織の幹部職員が自殺した、というのは「大事件」と見てもよいだろう。
それを匿名で報じていたのでは、その背景に何があったのか、何かが隠されているのではないか…という報道の使命を果たさないでいる、と思えるのでないか。
その意味で、実名報道したマスコミ各社にはそれなりの考えもあるし、今後、自殺したJOC幹部が実際に「事件」化しそうなことにかかわっていた、という「事実」が浮上する可能性もある、という判断で、名前を出す公益性はある程度認められる。発生段階で実名を出したことは意味がある、と思う。
もちろん、残された家族、死者の名誉…という観点から見れば、名前は出さない、出してほしくない話なのは言うまでもない。
ただ、先の立川の事件に比べれば、今回は名前を出す意味はずっとある、と思う。


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