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■実名公表の殺人被害者 匿名か実名か

マスコミへの道(40)
新聞、放送、出版…マスコミ志望の方々へ

立川市の男女殺傷事件 19歳の容疑者を逮捕

東京・立川のラブホテルで、呼びつけた31歳の風俗嬢とトラブルとなり、その嬢と助けを求められてやってきた風俗店男性スタッフー2人を殺傷した19歳男の事件。
上記のNHKニュースウェブでは2日「15時19分」のタイムスタンプがある記事では、被害者風俗嬢を実名で報じた。
一方、
19歳少年を殺人未遂容疑で逮捕 立川の2人殺傷
2日「14:14」のタイムスタンプがある産経ニュース記事では、被害者の名前を報じていない。

警察が被害者氏名を報道発表した結果、共同通信はじめ新聞各紙、NHK、民放各局とも多くが被害者を実名で報じた。
すぐにネット上では、被害者のSNS(この場合FB)をチェックし、人定(その人を特定する)作業を〝素人〟が一斉に行った。
この手の事件が起きるといつも起きる現象ではある。
ヤフーコメントを見ると、少年ということを理由に加害者男の人定が伏せられる一方、被害者の実名が報じられているのは理不尽だ、といった書き込みがたくさんあった。
僕もまったく同感である。
警察も、そうした世論に同調して名前を伏せてもよさそうなものだが、原則的に実名を出す、というのが当局の姿勢である。
ただ、マスコミの中では、上記の産経はじめ読売、朝日なども被害者名を伏せた(産経含めて一部は一報段階で実名、後に匿名に変更)一方、人権派・市民派を標榜する毎日が2日夕刊でも被害者の実名を出して報じるなど対応が分かれた。

ヤフーコメントなどには、「毎日はもう買わない」(最初から買ってないと思うがw)と書く人がいたせいか、毎日のネットニュースも夕方には匿名にした。

報道各社も、結局名前を伏せることになるのに、最初になぜ報じたのか。死者への人権侵害は明らか。警察だけでなく、役所(国、地方)なども大事故、災害での被害者、死者の名前を出すか出さないか…。ずいぶんと対応が揺れる、揺れてきた。
2016年に入所者ら45人が殺傷された神奈川の知的障害者施設「津久井やまゆり園」事件では多くの被害者の名前が遺族の意向を受けて神奈川県は非公表にした…。
警察はじめ、当局も昔と違い、遺族などが希望すれば必ずしも名前は広報しないはずである。
ただ、それを報道発表の前に、遺族・関係者に確認するかどうか…。
たぶん、しないままなんじゃなかろうか。
今回の立川ラブホテル事件の被害者の家族も、被害者の身元確認をしているわけで、報道発表で実名を出さないでくれ、と要望することはできたはずだ。ただ、警察が、「遺族は名前を伏せてほしいと言っているが、報道各社に判断を任せる」ということもある。少なくとも僕が警察取材をしていた30年前もそうだったし、最近もそういうケースはある、と聞く。

ただ、マスコミ、報道する立場からいえば、公権力にそれ(名前の非公表)を許せば、何でも隠される、という論理になってしまう…。そこで、氏名公表という原則論に縛られた格好で名前を報じた…ということが続いているはずだ。今の時代、一度マスコミが報じたら、ネットニュースでその後に匿名にしたところで意味はほとんどない、と言えるし、今の時代大上段に振りかざした報道の意義への世間の反発はかなり強いはずだ。

被害者となってしまった際には、その悲劇を引き受けないといけない、としたらなんとも残酷な話なのだが。

それでも、原則にこだわる記者も多いだろう。心優しい人には、やはり記者職はしんどい、と思う。僕には娘はいないが、仮にマスコミ行きたい、と娘が言い出したら、そんな非情な仕事はしてほしくない、と言ったと思う。


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