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■プロフィルに学歴を載せない作家

現代散文自由詩人の独り言(74)

◇ 高橋弘希「音楽が鳴りやんだら」を読んで

第159回(2018年上半期)の芥川賞を「送り火」で受賞した作家の最新作。文芸春秋刊、2022年8月初版。

新聞各紙も批評に取り上げているのを見て、図書館で借りて読んだ。「文学界」誌に連載されていたものを単行本化したものだが、著者の小説は初めて読んだ。
あらすじは下記のとおりだが、バンド経験もある作家だけに曲作りや業界のプロモーションの手法などなどなかなかリアルな描写で、「純文学」らしくないような印象も受けた。
主人公のセリフに「作曲なんて簡単だよ。気持ちいのいいコードに気持ちのいいメロディーをのせるだけだよ。作詞なんて簡単だよ。気落ちのいい言葉に気持ちがいい言葉を繋げるだけだよ」というのがある。
そうやって、ぼくも詩を書きたいものだ、と思った。

タイトルは、ドアーズの「When the Music Over」(邦題・音楽が終わったら)を想起させるが、この小説のサブタイトルの英文表記は「when the music stops」…。ドアーズのジム・モリスンからインスパイアされているというのを微妙にずらしたのだろう。

◇実はこういう小説を書きたかった

ぼくは、8-9年前にカルチャーセンターの小説講座に通っていた際に、結局は未完に終わった小説で、「ジム・モリスンが現代の東京に現れて音楽活動をする」というものを書いていた。
自分が東京を離れて地方で単身赴任生活をするタイミングで、小説を書くことから離れてしまい、その「小説」=タイトルは「Wake Up!」=も尻切れトンボに終わってしまった。

この小説を読んでいて、「こう書くのか、音楽モノは…」と目を開かされた。自分は最後まで書けなかったことが悔しい❗️

本の内容

天賦の作詞作曲の才に恵まれた福田葵。バンドのデビューのために幼馴染を外すことを選ぶ。その瞬間から音楽の神は葵にますます愛を注ぎ、あるいは天罰を下す。『文學界』連載に全面的な訂正をほどこして単行本化。

図書館データベース

◇ぼくの感想

小説、ノンフィクション、ビジネスもの、詩…あらゆる本の最後には著者のプロフィルが載る。生年や出身地、学歴や職歴…。高橋弘希は小説の受賞歴しか載っていない。
学歴などで人を判断、値踏みをするのが手っ取り早いと思うぼくは、いつも、ほぼすべての本の巻末でそれをチェックする。
この本については、作者の受賞歴しか「情報」がないまま、読み切った。
作者の背景を知りたい、値踏みをしたいという気持ちを超えて小説の最後まで読みたい気持ちのほうが勝ったのである。
もちろんWikipediaには彼の「学歴」も載っており、敢えてそれを書かないのにも納得。作品での評価をしろ、ということだろう。

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