人生はまるでカセットのよう|『プアン/友だちと呼ばせて』
ここ最近、タイのカルチャーがおもしろい。映画もドラマも音楽も話題になることが多く、丁寧に発信してくれる方々の情報をチェックして、新しい文化を知ることができて、とにかく嬉しい。
タイ文学とタイポップスに入門する
今年5月に、下北沢BONUS TRACKで開催された「タイポップカルチャーマーケット vol.0」では、タイ文学にまつわるZINEを購入しました。日本語に翻訳されたことのない作品の冒頭を紹介する冊子で、タイ文学の雰囲気を少し知ることができます。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」では、タイポップス探検家・山麓 園太郎さんがタイの音楽をご紹介。現在は活動終了したタイのアイドルグループFEVER(フィーバー)すごくいいです。
タイ映画 『プアン/友だちと呼ばせて』
そして今月は楽しみにしていた映画『プアン/友だちと呼ばせて』を観に行きました。
高校生たちのカンニング事件を描く『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のバズ・プーンピリヤ監督最新作で、名匠ウォン・カーウァイがプロデュースしていることでも話題になりました。(現在ウォン・カーウァイ4K上映もやっているので、劇場で何本か鑑賞する予定)
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』も公開当時、劇場で鑑賞しましたが、とにかく演出や音楽の使い方がかっこいいよくて、とても興奮したのを覚えています。
本作『プアン/友だちと呼ばせて』ではバズ・プーンピリヤ監督のスタイリッシュさはそのままに、ウォン・カーウァイを意識したライティングや撮影が見事に交わっていて、わたしはとても大好きな作品になりました。
ニューヨークでバーを経営するボスは、友人ウードから数年ぶりに電話を受ける。白血病で余命宣告を受けたウードは最後の願いを聞いて欲しいとのこと、ボスはバンコクへ駆けつける。
ニューヨークからバンコクと、かつての思い出の地をめぐるロードームービーとして、観客も一緒に車に乗りながら、タイの海風を感じられるような映像美が好きでした。
バンコクからコラート、サムットソンクラート、チェンマイからナコンサワンと普段あまり聞かない土地が登場するのもおもしろく、早く旅行したいなぁという気持ちになります。(パンフレットにロケ地となった場所の簡単な説明が掲載されています)
ウードとボスとの友情、元カノたちとの思い出が中心に描かれますが、わたしはウードと父親の話がとても好きでした。ラジオDJとして長年、深夜の音楽番組をやってきた父親のことを、ウードはとても尊敬していることが分かるし、それゆえ死に際に立ち会えなかったことを大きく悔やんでいることも伝わってくる。そんな父親とのさよならをするシーンは、清々しく美しく、素晴らしいシーンでした。
「ウードは実は嫌なやつなんじゃないか」や「他人を巻き込むな」という感想をSNSで見かけたのですが、わたしは人間ってそんなもんだよなぁと思う。
カセットのように人生にもA面とB面があり、死を意識した際に、他人を巻き込みたくなるのは自然なことじゃないかと。突然、死を目の前にしたら、感謝も後悔も迷惑も、同じくらい大事なことになるような気がします。
本作はおしゃれでスタイリッシュな作品ですが、中身は嫉妬や焦りや悲しみなど人間くさい感情ばかりです。そのどうにもならない感情と、映画的なかっこよさの対比がおもしろく、エンターテイメントとしてうまく昇華されていると感じました。
生きているうちに過去を清算をするというのは、もしかしたら仏教国タイならではの輪廻転成の考え方もあるのかなぁ。
エンディングで流れる本作の主題歌「NobodyKnows」も素晴らしかったです。この曲を聴いて、映画の最後のピースが埋まると思えるほど、エンドロールで感動してしまいました。歌うのはSTAMP&Christopher Chuさん。
ヴィンテージのBMWや、カセットテープ、カクテル、ラジオ、フィルムカメラとノスタルジーを感じるアイテムや音楽が効果的に使われていて、観ているだけで楽しい。
▼▼『プアン/友だちと呼ばせて』に登場するごはん▼▼
本作を代表するフードは、もちろんカクテル!🍸
映画に登場するカクテルメニューはこの作品のオリジナルだそうで、パンフレットにレシピが掲載されています。
わたしが飲んでみたいのは、ルンをイメージした「雨上がりの虹(ルン)」というカクテル。ローズマリーとミントを漬け込んだウォッカを使っているそうで、どんな味がするのか気になります。
オリジナルカクテル以外には、ボスの思い出の味であるニューヨークサワーが登場。ニューヨーク・サワーはシカゴ生まれのカクテルで、ウイスキーベースカクテル。
ボスとウードが飲み明かすシーンでは、パブ酒のような強烈な見た目のお酒も登場しました。
なんと監督自身もバーを経営しているそうで、自分の好きなものを詰め込んだパーソナルな映画っていいなぁと思いました。(監督がオーナーを務めるバーのInstagramはこちら)
これからもタイカルチャーから今後も目が離せません!
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