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喪失と再生の中で食べること|『ムーンライト・シャドウ』のごはん

吉本ばななさん『キッチン』に収録されている短編小説の映画化、『ムーンライト・シャドウ』に食事シーンが多く描かれていたのでメモします。

『ムーンライト・シャドウ』ストーリーは、
さつきと等は導かれるように出会い、恋に落ちる。等の3歳年下の柊と、柊の恋人ゆみこをあわせた4人は意気投合し、多くの時間を共に過ごす。時には、ゆみこが気になっているという「満月の夜の終わりに死者ともう一度会えるかもしれない」という不思議な現象「月影現象」についても語り合うなど、4人は穏やかで幸せな日々を送っていた。
しかし、ある時、等とゆみこが死んでしまう。突然の別れに打ちひしがれ、悲しみに暮れるさつきと柊。愛する人を亡くした現実を受け止めきれないさつきと、そんな彼女を心配する柊。それぞれの方法で悲しみに向き合おうとしていた時、2人は不思議な女性・麗と出会い、それをきっかけに少しずつ日常を取り戻していくが……。(映画.comより引用)

原作『キッチン』は読んだ記憶があるのですが、実家に置いたままだったので再読せずに鑑賞しました。
予告編くらいしか前情報を入れずに鑑賞したので、意外とファンタジー色が強いアート系な作品だったので少し驚きました。ただこのような作品が結構な規模で公開されているのはいいことだなぁと思いました。

今回の映画では改変も多く加えられたようで(それに対していろんな意見も見ましたが)わたしは映画版は、原作とは全く別の作品として捉えてます。
エドモンド・ヨウ監督はマレーシア出身だったり、撮影のコン・パフラックさんがタイ出身だったりするのも、この映画の少し不思議な雰囲気を作っている要素なのかもしれません。

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ただ誰もが大切な人を失うかもしれない今、残された者がどう立ち直っていくか、映画での描き方は興味がありました。そして印象的だったのは、喪失の真っ只中にいる主人公さつきが、再生に向かって進む中での重要な行動として「食べること」が分かりやすく描かれていました。

「かもめ食堂」のセリフにもありますが「みんな何かを食べないと生きていけない」ですよね。どんなに悲しくて苦しくても、お腹が空いたら何かを食べて、また生活をしていくんです。

▼▼『ムーンライト・シャドウ』に登場するごはん▼▼

ロールキャベツ
等の3歳年下の弟、柊(ひいらぎ)は初対面の人に手作り料理を振る舞うのが流儀。さつきはそこで柊と恋人のゆみこに会い、意気投合します。
このシーンで柊が作るのはロールキャベツ。テーブルにはキッシュとコロッとした丸いパンも並んでいました。おしゃれ。
柊は食べる姿を見ることで、相手のことがよく理解できるのだそう。この感覚は少し分かるかもなぁと思いました。食べ方や、食に対する意識は人それぞれ違って、人柄が出る気がします。

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お蕎麦と天ぷら
等とゆみことの突然の別れのあと、食事も手につかず、息の仕方も忘れた、苦しそうなさつき。必死にジョギングするシーンが苦しさを描きます。
そこで不思議な女性・麗(うらら)に出会い、自らの声に向き合うことを提案されます。悲しみを吐き出したのか、さつきは「お腹すいた」と、やっと食べるということが出来るようになります。
ここで登場するのが、お蕎麦と天ぷら。エビ天をむしゃりと、ゆっくり食べる姿、印象的でした。

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早朝のパン屋さん
物語のラスト。「月影現象」に遭遇できたのか分からないけど、不思議な体験をしたような早朝。パン屋さんで朝ごはんを食べます。パンと温かいドリンク。朝日に湯気が揺らめいて綺麗でした。

フードスタイリストは加藤綾佳さんという方だそうです。他にどんな作品を担当されているか分からないのですが、今後もチェックです。
また本作のパンフレット、本のようになっていて可愛かったです。シナリオ決定稿も掲載されています。デザインは大島依提亜さん。

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さつきのお部屋や、衣装、メイクも可愛かったなぁ。小松菜奈ちゃん好きになりました。きゅんです。

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「ひとつのキャラバンが終わり、また始まる。」
これから悲しいこともあるかもしれないけど、おいしいものを食べて生きていこう。

(C)2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

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