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客観的合理性と社会的相当性がない解雇は無効!その具体的な意味は?~その1~

前回のnoteの最後に労働契約法第16条に言及しました。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という条文です。

これを三段論法の論理式で表すと(第67回note参照)、「解雇権の濫用→解雇は無効」という大前提のもと、「¬(客観的合理性 ⋀ 社会的相当性)→解雇権の濫用」という小前提なら、「¬(客観的合理性 ⋀ 社会的相当性)→解雇は無効」という結論になるということです。なお、雇主による解雇が適法であるためには、「客観的合理性」と「社会的相当性」の両方が満たされていなければなりません。

これは、専門的には、解雇権濫用法理と言うようです。

ここで重要となるのが解雇の理由です。当たり前ですが、従業員が違法な解雇を主張するには、解雇の理由を知る必要があります。その点、労働基準法第22条1項には「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」という定めがあります。つまり、解雇を言い渡された従業員は雇主へ「解雇理由証明書」または「退職理由証明書」の発行を請求することができ、請求された雇主はそれを交付しなければならないのです。

第82回noteでは、法律・条文を示して、具体的に解雇が違法になる6つの理由、具体的なケースを見てきました。しかし、この労働契約法第16条はそれら6ケースとは異なって、「客観的合理性」を欠いて、「社会的相当性」を伴わない解雇は違法であるというように、とてもざっくりとした要件となっています。

法律の条文はざっくりとしているからと言って、労働審判ないし民事訴訟で「わたしの解雇には客観的合理性や社会的相当性がない」と主張するだけでは、労働審判委員会/裁判官は違法な解雇とは認めないでしょう。

従業員は、違法な解雇を主張するのなら、自らの解雇にかかわる個別、具体的な事実を一つ一つ積み上げていくことによって、その解雇が「客観的合理性」を欠いていること、または「社会的相当性」を伴っていないことを証拠をもって立証する必要があります。ちなみに、裁判上の実務では、「解雇権の濫用」の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて、雇主側に主張立証責任を負わせています。つまり、雇主は、従業員の主張に対する反論として、「解雇権の濫用」をしていないと立証しなければならないということです。

従業員が解雇は違法であると主張するには、その解雇が「客観的合理性」を欠くこと、「社会的相当性」を伴わないことのうち、少なくともどちらか一方を立証すればよいということになります。そして、労働契約法第16条に基づいて、解雇は無効として「地位確認請求」の労働審判ないし民事訴訟を起こすことになります(改めて、後のnoteで解説予定です)。

では、解雇には懲戒解雇と普通解雇と整理解雇の3つ(第78回note参照)があるなかで、この労働契約法16条は、どのような時に出番となるのか。

仮にあなたが解雇されたとしましょう。その場合、まず懲戒解雇であるか否かをみます。就業規則に懲戒解雇の事由が定められていると思いますので、それに該当しないなら、その解雇は少なくとも懲戒解雇ではない、あるいは違法ということです。

懲戒解雇でないというなら、そこで次に、あなたの解雇は普通解雇なのか、それとも整理解雇なのかをみます。ここで出番となるのが、労働契約法第16条です。つまり、あなたの解雇に客観的合理性と社会的相当性の両方ともが伴っているのか、言い換えれば、普通解雇として適法かをみていきます。

そして、もし、あなたの解雇には客観的合理性が伴っているとは言えない、しかしそのような場合でも、雇主の経営上の必要性からあなたの解雇を正当化しなければならない状況であるというなら、はじめて整理解雇の適法性が論じられることになります。

ざくっとしたものですが、これを、懲戒解雇と普通解雇と整理解雇の関係性と捉えておけば良いと思います。

さて、労働契約法第16条を論じる場合に問題となってくるのが、「客観的合理性」を欠くとは具体的にどういうことなのか「社会的相当性」を伴わないとは具体的にどういうことなのか、ということです。ですが、これらについては次回で解説したいと思います。

退職や解雇には、実にいろいろな要因が絡んできて、労働者毎に様々なパターンが存在します。その不当解雇問題の解決は、未払い残業代請求問題と比べても難易度は相当高いと思います。引き続き、できるだけ具体的に解雇にかかわるポイントを整理してお届けします。今回もここまでお読みいただきありがとうございました。

街中利公

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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