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客観的合理性と社会的相当性がない解雇は無効!その具体的な意味は?~その2~

今回のnoteも、前回に続いて、労働契約法第16条にからんだ違法な解雇について述べていきたいと思います。

労働契約法第16条は「客観的合理性」を欠いた解雇、「社会的相当性」を伴わない解雇を、雇主による解雇権の濫用(らんよう)として無効と定めています。この法律・条文に従わなければ違法として、その解雇は無効になるということ。しかし、第82回noteで述べた6ケースの法律・条文に比べると、この労働契約法第16条はざっくりとしています。そのあたりを解説したいと思います。

第77回noteで述べたように、従業員も雇主も雇用契約を解約する権利(=解約権)を持ち、それをいつでも行使することができます(民法第627条1項)。この解約権を雇主が行使することによって従業員に会社を退職させる権利を「解雇権」と考えればよいと思います。

雇主は従業員を言わば自由に解雇できるわけですが、一定の制約も課されています。

まず、第82回noteで挙げた代表的な6ケースの法律・条文に違反する場合、雇主による解雇権の行使は無効になります。これが強行法規違反です。その解雇は法律違反なので(違法な解雇なので)無効ということです。なお、強行法規違反の前に、雇主は、従業員を解雇するなら、労働基準法第20条に定められた解雇予告の手続きに従う必要があります(第82回note参照)。ただし、同条に従ったからと言って、けっして、それだけで解雇が適法となるわけではありません。

さらに、冒頭で述べたように、労働契約法第16条が言う「解雇権の濫用」による解雇も、無効になります。もっとも、「権利の濫用」は、解雇権だけに限らず、どのような権利の行使に対しても主張できるものです(民法第1条3項)。とりわけ労働の領域では多くの判例によって「解雇権の濫用」が適用されることが確立されてきたようですが、それが条文として引き継がれたのが労働契約法第16条です。

しかし、この労働契約法第16条も、他の労働法も、何が「解雇権の濫用」に当たるのかについて、基準を定めているわけでも、類型化をしているわけでもありません。つまり、前回のnoteでも述べたように、自分が雇主による「解雇権の濫用」によって解雇されたと主張するなら、自らの解雇にかかわる個別、具体的な事実を証拠をもとに一つ一つ積み上げていくことで、「解雇権の濫用」を主張する必要があるわけです。

ちなみに、裁判実務では、「解雇権の濫用」の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて、雇主側に主張立証責任を負わせています(労働基準法の旧第18条の2に付けられた立法者の意思としての衆参両院厚労委員会の附帯決議より)。つまり、雇主は、従業員の主張に対する反論として、「解雇権の濫用」をしていない、解雇は「客観的合理性」と「社会的相当性」の両方を満たしていることを主張・立証しなければならないということです。

では、「客観的合理性」を欠く、「社会的相当性」を伴わないとは、具体的にどのようなケースを言うのでしょうか。

「客観的合理性」とは、一般的には、誰が見ても道理にかなっていること、誰もが「そりゃそうだ」と納得すること。「社会的相当性」とは、世間一般の常識として(社会通念上)ふさわしいと捉えられること。これらの意味を解雇に当てはめてみます。

まず、解雇が「客観的合理性を欠くということは、誰もが「その解雇はやむを得ない」と言えるレベルにまでは達していないということです。おおむね、次の要素などが「客観的合理性」があるか否かの判断に使用されると言われています。ただし、解雇は従業員毎に背景や経緯や状況が異なるので、キッチリとした基準や類型が決まるわけではなく、労働審判や民事訴訟では個別、具体的なケース毎の判断となってくると思います。

■ 病気やケガで働けなくなる、またはその能力が落ちること
■ 職務能力の不足、勤怠の不良、職務懈怠、業務適性がないこと
■ 職務規律違反、違法行為をはたらいた、または刑事で有罪になったこと
■ 雇主の業績悪化など経営上の必要性
■ ユニオンショップ協定にそっていること

なお、これら要素は、就業規則において、解雇の要件として規定されていることが多いと思います。

そして、解雇に「社会的相当性が伴っていないということは、たとえその解雇に「客観的合理性」が備わっていると判断されるとしても、世間一般の常識に照らし合わせて、また例えば同業他社の事例や過去の事例とのバランスから、さらには解雇理由の内容と解雇処分とのバランスから、「その解雇はやむを得ない」と言えるレベルにまでは達していないということです。次の要素などが「社会的相当性」があるか否かの判断に使用されると言われています。

■ 解雇処分は解雇理由となった労働者の行為からして過酷過ぎないか
■ 他の従業員の処分とのバランスはとれているか(均衡を欠いていないか)
■ 解雇を回避する対策(能力不足なら、研修や指導)を施したか
■ 解雇される従業員にどのような個別の事情があるか(勤怠や処分歴など)

繰り返しですが、仮に解雇に「客観的合理性」があると判断されたとしても、「社会的相当性」が伴わなければ、その解雇は無効となります。

今回はこれで一旦区切りたいと思います。次回以降も引き続き、労働契約法第16条に関係する違法な解雇について解説します。特に、「客観的合理性」があるか否かの判断要素、「社会的相当性」があるか否かの判断要素について、もう少し具体的にみていきます。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

街中利公

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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