三段論法が「裏付け→事実→主張」に効く!
今回の『本人訴訟の「論理学」』は三段論法についてです。
三段論法とは、「A」と「B」と「C」という3つのことがあって、その3つから「AであるならCである」ということを導く論法のことです。次のような仕組みになっています。
Aであるなら、Bである(A→B)
Bであるなら、Cである(B→C)
ゆえに、Aであるなら、Cである(A→C)
簡単な例で言えば、
鷹は、鳥です(A→B)
鳥は、空を飛びます(B→C)
ゆえに、鷹は、空を飛びます(A→C)
会社を例にすれば、
街中さんは、営業課長です(A→B)
営業課長は、管理監督者にあたります(B→C)
ゆえに、街中さんは、管理監督者です(A→C)
では、従業員が雇主に未払い残業代を請求する労働審判や民事訴訟でのケースを想定しましょう。未払い残業代を請求する従業員に対して、雇主は「労働基準法に従えば、その従業員へ普通残業代を支給する必要はない」と反論するでしょう(第27回note参照)。その雇主の論法には、三段論法が使われています。つまり、
その従業員は、営業課長である(A→B)
営業課長は、管理監督者にあたる(B→C)
ゆえに、その従業員は、管理監督者である(A→C)
とすると、雇主には「A→B」と「B→C」を書証を以って立証する必要がでてきます。前者の「その従業員は、営業課長である」については、辞令証や任命証、雇用契約書が書証になります。後者の「営業課長は、管理監督者にあたる」については、権限規程や役職規程、就業規則、あるいはジョブ・ディスクリプションなどが書証となります。
これら「A→B」と「B→C」が書証で裏付けられて立証されるなら、三段論法に従って「A→C」の「その従業員は、管理監督者である」は真となり、労働基準法に基づいて、その従業員には普通残業代は支給されないとなるのです。
もっとも、実際には法律上の管理監督者の範囲は相当狭いことから、雇主による「B→C」の立証は相当精緻である必要がありますが。もし雇主が書証を以って「A→B」と「B→C」を立証できないなら、あるいは裁判所が納得するような立証ができないなら、「A→C」は導かれないということになります。
対して、未払い残業代を請求する側の従業員としては、第27回noteで解説したように、勤務時間や出退勤時間、給与・手当・待遇、職責や職務内容の観点から、証拠を提示して自分は管理監督者には当たらないことを主張します。「A→C」の結論が導かれないように、「A→B」ないし「B→C」が成立しないような主張を繰り出す必要があるわけです。
ここから少し難しくなるのですが、三段論法は3つの概念と3つの命題から成り立っています。3つの概念とは先述の「A」「B」「C」のこと(3つの項とも言う)。一方、3つの命題とは先述の「A→B」「B→C」「A→C」のことで、「A→B」は小前提、「B→C」は大前提、「A→C」は結論と言います。
命題とは、簡単に言えば、「〇〇は△△である」というような文で、ウソかホントか、真か偽か、の判定ができるもののことです。〇〇と△△の部分には概念(項)が入ります。命題は、次の4つの型に分類することができます。
■ すべての〇〇は、△△である(=全部を肯定する型、A)
■ ある〇〇は、△△である (=特定の部分を肯定する型、E)
■ すべての〇〇は、△△でない(=全部を否定する型、I)
■ ある〇〇は、△△でない (=特定の部分を否定する型、O)
*A・E・I・Oは、それぞれの型を意味するラテン語の頭文字です。
つまり、これら4つの型(A・E・I・O)をとり得る命題が3つ(小前提・大前提・結論)あるということです。さらに、命題にふくまれる3つの概念(項)の配列によって4つの格に分けられます。ですので、三段論法は、パターンとしては(4×4×4)×4=256通りあるということになります。
命題①、命題②、命題③の順にAEIOを組み合わせると、AAA、AAE、AAI、AAO、AEA、AEE、AEI、AEO、AIA、AIE、AII、AIO、AOA、AOE、AOI、AOO、EAA、EAE、EAI、EAO・・・・・・・・・・といった組み合わせが4×4×4の合計64通りできます。さらに、4つの格があるので、64×4の256通りというわけです。
ですが、この領域に踏み込んでしまうと考えこんで危険なので、もし興味のある方、頭を柔らかくしておきたい方は、ご自身で調べてみてください。
もとに戻って、三段論法とは論理的な推論の手法のひとつです。突き詰めていくと難しいので、ここでは、第58回noteで論理とは「思考のつながり」と言いましたが、つまりは各命題がつながっていって結論が導かれる方式くらいに理解しておけば良いのではないかと思います。
労働審判や民事訴訟の当事者は、各命題がホントであること、真であることを書証を以って明らかにしていって、結論の命題が真であることを立証します。優れた労働審判手続申立書や訴状、答弁書や準備書面では、「裏付け→事実→主張」のプロセスにこの三段論法がしっかりと組み込まれている場合が多いと思います。
では、次回の「論理の誤謬」をお楽しみに!
街中利公
拙著『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)も、是非手にお取りください。
免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本コラムで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。
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