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解雇には普通解雇と懲戒解雇と整理解雇がある

この『本人訴訟で不当な解雇に対抗する』シリーズでは、文字通り、会社からの不当な排斥(ここでは「解雇」という用語を使っていますが・・)に対して、裁判所を使って、しかも本人訴訟で対抗する方策について具体的に説明していきます。

このとき、前回のnoteで述べた3つの「会社を辞める」カテゴリーのうち、

■ 会社の都合で「会社を辞める」ケースにおける不当な排斥
■ 自分の都合で「会社を辞める」ケースにおける不当な排斥

に焦点を当てていきます。まずは、前者から解説したいと思います。

前回のnoteで、会社の都合で「会社を辞める」ケースには「解雇」と「退職勧奨」の2つのパターンがあると紹介しました。「解雇」も「退職勧奨」も従業員にとっては気持ちのよいものではありませんが、そのものが違法なわけでも不当なわけでもありません。それでは、「解雇」と「退職勧奨」それぞれにおいて、どのような具体的なケースが不当な排斥となるのでしょうか。つまり、どのようなケースが不当な「解雇」となるのか、どのようなケースが不当な「退職勧奨(=退職強要)」となるのか。

説明の前に、今回のnoteではまず「解雇」についてもう少し詳しく見ておきたいと思います。

解雇(=雇主が従業員に会社を辞めさせること)には、普通解雇懲戒解雇整理解雇の3つがあります。

普通解雇とは、雇用契約にもとづいて従業員が負っている義務を遂行していないことを理由とする解雇、つまり従業員による雇用契約上の債務不履行を理由とする解雇です。

就業規則には、労働基準法第89条3号に従って、解雇の事由を含む退職に関する事項が記載されているはずです。例えば、身体的な原因で業務を遂行することが著しく困難なとき、勤務成績が著しく不良で研修等を経たにもかかわらず就業に適さないと認められたときなど、が普通解雇の事由として就業規則に明記されるのが一般的です。ただし、あらゆる事由をすべて列挙するわけにはいきませんので、「その他、前各号に準ずる事由」というように一般条項を定めておくことが多いと思います。

なお、労働契約法第16条に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という定めがあります。つまり、解雇は、客観的合理性社会的相当性が伴われなければ無効になるということ。ちなみに、解雇が適法(有効)であるためには、「客観的合理性 ⋁ 社会的相当性」ではなくて、「客観的合理性 ⋀ 社会的相当性」である必要があります(第72回note参照)。

この部分は、不当な「解雇」のケースで非常に重要なポイントとなってきますので、改めて詳しく解説する予定です。また、解雇には、もちろん、法令に違反しないことというルールもあります。法律に反した解雇は違法。この辺りについても、後のnoteで説明します。

懲戒解雇とは、企業秩序に違反する行為や違法行為に対する制裁としての解雇です。言い換えれば、雇主による懲戒権の行使の結果としての解雇です。

通常は就業規則において、無断もしくは正当な理由なく欠勤が連続14日以上に及んだとき、重要な経歴を偽って採用されたとき、横領したり会社のお金を遣いこんだとき、刑事事件で有罪の判決を受けたときなど、懲戒解雇の事由が記載されています。

普通解雇として捉えられる場合、または懲戒解雇として就業規則に規定されている場合のどちらにも当てはまるのが、例えば、守秘義務違反、競業避止義務違反などのケースです。

ただ、「営業成績が悪い」「退職勧奨に応じない」という事由で、懲戒解雇にはできないと思われます。「営業成績が悪い」という事由は、通常は普通解雇の範疇ですし、その事由が客観的に合理的か、社会的に相当なものかという基準で普通解雇の適法性が判断されることになります(改めて後のnoteで解説します)。「退職勧奨に応じない」という事由での懲戒解雇など、ブラックそのもので論外です。退職勧奨と解雇との関わりはとても重要ですので、これも改めて解説予定です。

整理解雇とは、会社の経営悪化を背景にコスト削減をすすめたにもかかわらず経営状況が改善しない場合の最終手段として、人件費の削減を目的とした解雇です。一般的には、「リストラ」と言われることが多いと思います。

就業規則に、解雇の事由として、例えば、事業の縮小等のやむを得ない事業上の都合により必要のあるとき、事業の運営上やむを得ない事情または天災その他に準ずるやむを得ない事情により事業の継続が困難になったときなどと記載されていることもあります。その意味では、整理解雇は、従業員には非が全くないものの、普通解雇の一つと言うことができます。ただ、整理解雇が普通解雇の枠組みのなかでどのように位置付けられるのかや両者の関係性には、なかなか難しい法理論も絡んでくるようです。

整理解雇では、判例の積み重ねによって、一般的に「整理解雇の4要件(4要素)」が問題になり、4要件(4要素)のすべてが満たされない場合、その整理解雇は雇主による権利の濫用にあたると判断されることがあります。「整理解雇の4要件(4要素)」とは次のとおりです。

① 人員削減の必要性
② 人員削減に整理解雇を選択することの必要性(解雇回避努力義務の履行)
③ 被解雇者選定の妥当性
④ 手続きの妥当性

理論的には、「要件」なのか「要素」なのか、また「4要件(4要素)」なのか「3要件(3要素)」なのかといった議論があるようですが、ここでは素直に、これら4つを解雇が権利の濫用に当たるか否かの基準として理解すればよいと思います。

以上、解雇は、必ず、普通解雇か懲戒解雇か整理解雇かのいずれかになります。

懲戒解雇は就業規則に規定されていますし、誰にでもわかるようなやっちゃいけないことをやったからというシンプルな理由での解雇ですから、ある意味でわかりやすいもの。懲戒解雇に相当しない解雇なら、その解雇は普通解雇のフィールドで不当性が議論されることになります。つまり、その普通解雇は法令(強行法規)に従ったものか、客観的合理性があるものかといったところが争点になってきます。さらに、もし、その解雇には客観的合理性が伴っているとは言えない、しかしそのような場合でも、雇主の経営上の必要性からその解雇を正当化しなければならない状況であるというなら、はじめて整理解雇の適法性、すなわち4要件(要素)を満たしているかが論じられることになります。

繰り返しですが、解雇は、必ず、普通解雇か懲戒解雇か整理解雇かのどれかに当てはまるはずです。逆に言えば、3つの解雇のどれにも当てはまらないのであれば、それは解雇とは言えないということ。それでも「解雇された」のなら、それは不当解雇である可能性が高いということになるのです。

今回は以上です。次回から、以上を踏まえたうえで、「解雇」と「退職勧奨」が不当な排斥に当たる具体的なケースをみていきます。

街中利公

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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