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賃金請求権の消滅時効は2年!

今回も、前回と同じくちょっと休憩して、労働審判手続申立書の書き方から少し離れたいと思います。今回は、賃金請求権の消滅時効についてです。

まず、賃金とは、労働基準法第11条によれば、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」とされています。給料、残業代、アルバイト料、時給、日給、報酬など名称はともかく、正社員・契約社員・アルバイト・パートタイマーなどといった立場に関係なくいかなる人(労働者)にも、その提供した労務の対価として発生して、必ず支払われるべきもの。それが賃金です。

次に、賃金請求権。読んで字のとおり、賃金を請求する権利。労働基準法第24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」、同条2項では「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(以下略)」と定められています。これが賃金請求権の根拠です。

そして、消滅時効。これは、権利が「一定期間」行使されない場合、その権利を消滅させる制度のことです。会社(雇い主)とそこで働く労働者の関係で言えば、「賃金を支払ってもらうべき労働者」が「賃金を支払うべき会社(雇い主)」に対して、賃金を支払ってもらっていないにもかかわらず賃金の請求をしないで、法律で定められた「一定期間」が経過した場合、その労働者の法的な権利(=賃金請求権)を消滅させるというもの。(⇒「除斥期間」との違いは、改めて、後のnoteで解説予定です)

『リーガル・マキシム - 現代に生きる法の名言・格言』(吉原達也他著、三修社、2012年)に、「諸法は油断のない人を救済するが、眠れる人を救済しない。」という法格言が紹介されています。古法のローマ法にある格言のようですが、法律は権利の上にあぐらをかいて何もしない人については助けないとでも解釈すればよいのでしょう。正直なところ、あぐらも何も、法律の素人にとっては権利があることすら意識しない、知らないのでは・・・とも思わざるを得ませんが、法的に言えば、それもあぐらをかく、何もしないとなるのでしょう。

ただ、消滅時効は援用が条件です。援用とは、消滅時効の利益を受けることを相手に伝えることです。つまり、「賃金を支払うべき会社(雇い主)」が「賃金を支払ってもらうべき労働者」に対して、「あなたの賃金請求権はすでに消滅している」と伝える必要があるのです。この援用がされない限り、賃金請求権はけっして消滅し得ません。

以上をふまえた上で、本人訴訟で未払い残業代を会社に請求しようという方が注意しなければならないこと。それは、上で述べた「一定期間」の長さです。労働基準法第37条に基づく残業代も賃金ですから、つまりは賃金請求権の効力が消滅するまでの期間

労働基準法第115条に、賃金請求権には2年の消滅時効が設定されています。つまり、会社(雇い主)から労働者に対して法律や雇用契約の通りに賃金や残業代が支払われなかった場合、そしてその労働者が会社に対して未払いの金額を2年間請求しなかった場合、その労働者が持っていた賃金請求権はなくなってしまうのです。会社(雇い主)には弁護士が代理人として付くでしょうから、2年が経過しているにもかかわらず消滅時効の援用がされないといったことはまずあり得ないでしょう。

消滅時効の起点(いつから消滅時効が始まるのか)が争点になるケースもあるようです。しかし、賃金請求権については、例えば2017年1月31日に支給されるはずだった賃金や残業代については、消滅時効中断の手続き(改めて、後に解説予定です)がとられない限り、その賃金請求権は2年後の2019年1月31日をもってその効力が消滅してしまうのです。

ちなみに、不法行為にともなう損害賠償請求権の消滅時効は3年です。実務ではこの損害賠償請求権を使って未払い残業代の同額を請求するべく、裁判所に訴えを起こすケースもあるようですが、相当に限られた場合でしょうし、損害の存在や因果関係の立証など能力的に本人訴訟でこれができるか否かはおおいに疑問です。

もし皆さまがこれから本人訴訟で未払い残業代を請求しようとするなら、できるだけ早く行動をおこしてください。行動を起こすとは、本人訴訟(労働審判ないし民事訴訟)を提起する、若しくは消滅時効中断の手続きをとるということです。賃金請求権の消滅時効は2年。それを肝に銘じておかなければ、すべての行動が無駄になってしまう可能性があるのです。

第17回付加金、この第18回で賃金請求権の消滅時効について解説しました。皆さまのインスピレーションのお役に立てれば幸いです。では、次回の第19回では、申立書の「申立ての理由」欄の解説に戻りたいと思います。ここまで長文をお読みいただき、ありがとうございました。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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