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【連載企画】竣工即負債#01〜公共施設は負債?〜

【連載企画】はじめます

趣旨

これまでも、まちみらいとしての考え方や気づきなどを「まちみらい公式note」で紹介してきました。
備忘録や考え方の整理として捉えていたこともあり、毎回、長いものだと10,000字を超えるものもありました。

今後も長編、ワンテーマを掘り下げる形などもやっていくと思いますが、今回から新しい試みとして「不定期」の「数回に分けた形」での連載企画をやっていきたいと思います。

なぜ「竣工即負債」を取り上げるのか?

「公共施設マネジメント」は、総量縮減一辺倒になりがちで暗いもの(政治的な票を失うもの、貧乏くじ)だと思われていることを、残念ながらいまだに全国各地を訪れるたびに感じます。

では、なぜ公共施設マネジメントが総量縮減一辺倒になってしまうのか、「ザ・公共施設マネジメント」に陥ってしまうのか、このメカニズム(の一端)を考えるうえで今回の「竣工即負債」を整理したいと思います。

ザ・公共施設マネジメントのメカニズム

総務省による総合管理計画の策定要請

2014年の総務省による総合管理計画の策定要請では、次のように記されています。

我が国において公共施設等の老朽化対策が大きな課題となっておりますが、地
方公共団体においては、厳しい財政状況が続く中で、今後、人口減少等により公
共施設等の利用需要が変化していくことが予想されることを踏まえ、早急に公共
施設等の全体の状況を把握し、長期的な視点をもって、更新・統廃合・長寿命化
などを計画的に行うことにより、財政負担を軽減・平準化するとともに、公共施
設等の最適な配置を実現することが必要となっています。

総務省_公共施設等総合管理計画の策定等に関する指針

「更新・統廃合・長寿命化」により「財政負担を軽減・平準化」すること、つまり旧来型行財政改革の思考回路を踏襲し、財政が厳しいから「ハコモノの総量・維持管理費を短絡的に減らせば良い」となってしまっているのです。

さいたま市_ハコモノ三原則

また、この時期に総務省・コンサルタント・学識経験者等がセミナー等でさいたま市の「ハコモノ三原則」を取り上げたことも一因となったでしょう。

・ 新規整備は原則として行わない(総量規制の範囲内で行う)
・ 施設の更新(建替)は複合施設とする
・ 施設総量(総床面積)を縮減する(40年間で15%程度の縮減が必要)

さいたま市_公共施設マネジメント計画 【方針編】

ピュアな自治体

笹子トンネルの崩落事故を契機に、公共施設やインフラの老朽化・更新が社会問題化したことで、全国の自治体はこのことに向き合うこととなりました。
しかし、右肩上がり・高度経済成長・中央集権・誤送船団・ことなかれ・前例踏襲等を前提した(多くの)自治体は右往左往することとなり、無垢にザ・公共施設マネジメントへ舵を切ることとなってしまったのではないでしょうか。

「竣工即負債」とは

そもそも公共施設は「負債」なのか

ザ・公共施設マネジメントの根幹にあるのは、「公共施設は行政運営(≠自治体経営)における負債」という考え方です。
ハコモノ≒ハードとしての公共施設・インフラがそのまちの財政を圧迫し、必要な公共サービスを提供できなくなってしまう、財政運営(≠自治体経営)していくうえで邪魔な存在と捉えられてしまっています。

しかし、地方自治法では財産や公の施設について、次のように整理・規定されています。

地方自治法における財産の種類

(公の施設)
第244条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。

地方自治法

つまり、公共施設は市民生活を支えたり(≒公用施設)豊かにする(≒公の施設)ために存在するはずで、バランスシートで言えば「資産の部」に計上されるべきもので、決して「理論上」は負債ではないはずです。

コストセンター

2016年にスポーツ庁から示された「スタジアム・アリーナ改革指針について」では「コストセンターからプロフィットセンターへ」を標榜しています。

しかし、一般的な公共施設はこれまで「税金を使って公共サービスを提供するもの」であり、その経費の一部を受益者負担として使用料・利用料として徴収」するものとして扱われ、使用料・利用料を求めないものも多く存在します。(「図書館は料金を取ってはいけない」と信じている人も多いですが、図書館法で規制されているのは貸出・レファレンスなどの一部のサービスに限られています。このあたりは記すと長くなるので別の機会で)

「公共施設はコストセンター」であることから、財政運営が厳しければ旧来型行財政改革の考え方に沿って負債として取り扱われ、「短絡的なコストカットの対象」になってしまうのです。

初年度がピーク

大半の公共施設においては初年度が利用者数のピークとなることも多いでしょう。初年度はハネムーン効果もあるでしょうし、多様な誘客のイベントも開催されるとと思います。
公共施設を建て替える際の基本構想・基本計画等では、「老朽化により近年は利用者数が減少(・低迷)している」ことを改築理由に挙げている事例が大半ではないでしょうか。

「初年度(から数年間)にピーク」を迎え、時間とともに存在価値が毀損していくから負債として認識されてしまうのです。これが「竣工即負債」の意味するところです。

#02以降

公共施設が理論上だけでなく「実質的」に資産であれば、時間の経過とともに市民生活に与えるメリットは蓄積されていき、(副次的な要素を含めて)まちにも良い影響を与えていくはずです。

次回以降は、もう少しリアルな実態を予算や補助金・交付金、行政の組織・体制、マインドなどの面で掘り下げていきたいと思います。この部分はネガティブな要素も多くなってしまいますが、全国各地で「同じようなコケ方」をしているのであれば、そのメカニズムを分析することが重要です。「失敗の本質」は公共施設マネジメントにもあると思います。

「こうすれば必ずうまくいく」というのは正直わかりませんが、「これをやってしまったらコケる」というのは、自分の公務員時代の実務経験や多くの自治体での業務、各地の事例を実際に見たり聞いたりするなかでいくつか見えてきました。
だからこそ、こうした要素を整理していくと同時に、実際に現在携わっている事例での試行錯誤の様子なども紹介していきたいと考えています。

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