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随意契約保証型の民間提案制度2.0

随意契約保証型の民間提案制度とは

仕組み

随意契約保証型の民間提案制度の仕組みは簡単に書くと次のようなものです。

  1. (テーマや範囲を決めて民間事業者から提案を募る(公募開始)

  2. それぞれの提案について公募期間内に行政と民間事業者が「事前相談」を繰り返し案件の精度をブラッシュアップ

  3. 民間事業者が企画提案書を取りまとめ提出(A4用紙1枚程度とすることが多い)

  4. 行政が「協議対象案件」を選定(すぐに契約となるわけではない、あくまで「詳細協議に移るか」だけを決める)

  5. 提案者と行政が協議対象案件について「詳細協議」し、契約に向けた諸条件を整理

  6. (予算措置が必要なものは関連予算の議決をしたうえで)諸条件が整ったものは「提案者と随意契約して事業化」

公務員時代に流山市で「FM施策の事業者提案制度」として実施し、その後の数年間は追従する自治体は数えるほどでしたが、ここ数年、急激に広まりを見せています。
2023年5月現在のまちみらい調べでは、80以上の自治体が随意契約保証型の民間提案制度を何らかの形で実施しています。

「知的財産」を買う

拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」や下記noteでも記載しているとおり、行政が随意契約保証型の民間提案制度で買うものは「民間事業者の知的財産」です。

自称PPP/PFIの先進自治体を中心に行われているインセンティブ付与型の「非」随意契約保証型の提案制度は、民間事業者の提案を行政がお上意識で吸い上げ、「もっと安くできる奴はいないか」「これに+αのサービスをつけられる奴はいないか」と行政の傲慢そのものでしかなく、PPP/PFIの大原則である「対等・信頼の関係」すら無視するものです。

Ver.1.0

流山市の第1回の提案制度における協議対象案件は下記のとおりです。

流山市_第1回提案制度の協議対象案件

行政の抱える約1,000のすべての事務事業を対象に実施していた我孫子市では、包括施設管理業務などを協議対象案件に選定していました。

浦添市では「庁舎の敷地内にコンビニを設置する・庁舎の広場路利活用する・庁舎の敷地内で何かをする」ことに限定して第1回の提案制度を実施し、2023年にはコンビニが設置されることとなりました。

我孫子市と同様に事務事業を対象にスタートした苫小牧市では、対象となる事務事業を厳選したうえで実施しています。

これら初期の事例、いわゆる「提案制度1.0」は公共施設マネジメントや行財政改革の一環として、「民間事業者の持つ知的財産を活用して行政課題の解決に結びつける」ことに主眼が置かれていました。
民間事業者も、「(そのまちの)行政に寄せて提案すること」が要求されることから、この時点までに行政と深い関わりを持ってきた大手事業者が提案者の主流を占めていました。

自治体ごとの工夫

鳥取市の提案制度では、すぐに利活用を求めたい物件について、(無機質で機械的な物件調書だけでなく)そのエリアの特徴やどのようなことに使えそうかといったインスピレーションが沸く資料を作成し、民間事業者とイメージの共有を図っています。

鳥取市_提案制度における工夫

沼田市では、一般的に政争の具になりやすい庁舎跡地の利活用を提案制度のテーマ型の対象案件に据えて解決しています。

この他にも、福井市では提案制度で取り扱う物件について減額・無料貸付に関する議決を不要とする条例を制定したうえで実施したり、木更津市ては環境負荷削減に特化した形、常総市では全国初のトライアル・サウンディングを実施したことから、提案の精度を向上するためのトライアル・サウンディングを全施設で可能とするなど、自治体ごとに「やりたいこと」「自分たちの特性」を踏まえてアレンジが進んでいきました。

日光市・玉野市などのように、何らかの条件を付した上で「随時受付」の形式を採用する自治体もあります。

これらの自治体に共通することは、先行自治体の事例(提案制度1.0)をベースとしつつ、自分たちなりにアレンジすること、更に何度も自分たちで提案制度を運用しながらブラッシュアップしていることです。

これらの提案制度はVer.1.1〜1.9.9.9と言えるでしょう。

一般化と劣化

まちの課題とのリンク・可能性

東村山市、廿日市市など多様なPPP/PFIプロジェクトを展開してきた自治体では、対象を土地・建物or行政事業に絞ることなく、土地・建物&事務事業(&関連するもの←東村山市)といった全方位型で実施することもあります。

更に余市町では道の駅整備に活用したり、古河市では市民窓口に特化して運用したりといった形で、行政として「新しい財政負担が生じることを前提とした(許容した)」提案、まちの主要課題を民間提案制度で解決していこうとする自治体も現れてきました。

このように、民間提案制度が急激な広まりと多様な可能性を全国で示すことで、近年はさすがに「地方自治法を無視している」「行政の(発注・契約の)仕組みをわかっていない」「一部の民間と結託している」「随意契約はけしからん」といった旧来型思考の学識経験者・20世紀型の管理職などによるつまらない意見もさすがに減ってきたように感じます。

一般化による弊害

一方で、爆発的に広がりを見せてきた弊害(・必要悪?)も徐々に顕在化してきています。

「公共施設の省エネ」をテーマに掲げたり、フリー提案型で提案制度を実施する場合には、SDGs・脱炭素・GXといった流行り言葉を織り交ぜながら「公共施設のLED化」「PPA」に関する提案が必ずといって良いほど複数の民間事業者から寄せられます。
公共施設の省エネ化や設備更新は重要な要素ですが、民間事業者にとって都合の良い部分(≒採算性の良い部分)だけを切り取った形で提案がなされていたり、PPAの単価が高かったりする「安易な」提案も散見されます。

例えば公共施設の省エネ化は本来、提案制度によらずともシェアードセイビングス方式のESCOを用いることによって(要求水準書の諸条件の設定にもよりますが)照明だけでなく空調設備・誘導灯や関連設備等の更新、長期間にわたるエネルギーの削減保証、故障リスクの回避などの効果が比較的簡単に得られます。
自治体側から見た場合、提案制度でエネルギー変動のリスクが低くイニシャルコストも薄い照明だけ先行して更新してしまうことにより、これらのリスクやコストの高い空調設備の更新チャンスを喪失することにもつながってしまうのです。

もちろん、民間事業者は要求水準書に則り提案し、自らの知的財産をベースに提案しているのでどこにも問題はないわけですが、何かモヤモヤ感が残ります。

同様の提案として行政サービスのコスト全般を見直し、その会社の提案により削減したコストに応じてフィーを支払うという提案も、ほぼ全ての提案制度において提案されています。

随意契約保証型の民間提案制度の抱える課題の一つが、提案制度そのものが「公共施設のLED化」「PPA」「業務コスト削減」のパッケージものとして一部で認識されてしまい、本来のクリエイティビティが喪失してしまっていることです。
更に、当事者ではないので真偽のほどは確認できていませんが、こうしたビジネスモデルを持つ民間事業者が「営業ツールとして提案制度を自治体に売り込んでいる」という笑えない噂まで囁かれています。

随意契約保証型の民間提案制度の絶対数が急増して裾野が広がる一方で、自然の摂理として「本来の意味」をわからないまま、民間事業者の売り込み・アホコンサルによる情報提供・現場をやらない学識経験者からの助言等により安易に形だけ「劣化コピー」してしまう事例が増加している事実にも注意を払っておく必要があるでしょう。

また、資本力やノウハウが蓄積されている大手資本「だけ」のものにならず、地域プレーヤーが主体的に関わり、プロジェクトを組成していける環境や体制も考えていく時期になってきているでしょう。

これからの提案制度

地域プレーヤーとの連携

最近の提案制度では、制度の公表とあわせて民間事業者向けの説明会を開催することが多くなってきています。

射水市_提案制度説明会
福知山市_提案制度説明会
阿南市_提案制度説明会

80以上の自治体が随意契約保証型の提案制度を実施する時代になったからといって、(特に地元プレーヤーを中心とする)民間事業者には情報が十分に伝わっていないだけでなく、制度そのものも「(何十年とやってきた)従来型行政とは異なる」ため理解に時間がかかる(簡単には信じてもらえない)でしょう。

だからこそ「随意契約保証型の民間提案制度とは何か?」といった制度説明はもちろんですが、「提案制度でどのようなものが事業化できるのか?」「先行自治体ではどんな事業が展開されているのか?」「自分たちのビジネスモデルとマッチングするのか?」といった聞く側にたった構成が求められます。

更にサウンディングと同様、随意契約保証型の民間提案制度もこれだけ市民権を得て全国各地で実施されるようになってくると、民間事業者側が「より確度の高い・魅力的な」自治体を選ぶようになってきます。
待っているだけでは「選ばれる」可能性は限りなく低くなっている時代です。
自分たちで「こういうプロジェクトを実現したい」という夢を持って、徹底的に実現できそうな民間事業者をピックアップし、営業しながら事前相談で案件の精度を高めていく、こういうことが求められる時代になっています。

阿南市

こちらのnoteでも何度か取り上げている阿南市も、2023年4月に随意契約保証型の民間提案制度を開始しました。

阿南市では既に庁舎・科学センターなどでトライアル・サウンディングを先行実施しており、多くの地域プレーヤーとのネットワークを構築したうえで提案制度に踏み切りました。

阿南市_提案制度の対象案件(その1)
阿南市_提案制度の対象案件(その2)

都市公園では「ナショナルチェーンの出店を制限する」など、先行自治体の知見も反映した形で事業化しています。

また、前述のとおり昼・夜の2部構成で民間事業者向けの説明会も開催しましたが、終了後にいくつかのNPOや民間事業者から次のような同様のご意見をいただきました。
「提案制度、魅力的でうちの○○のスキームで応募したいと考えているんだけど、1社だけでは提案書を作ったり、実施するのにちょっとハードル高いんだよね。」
また、大手事業者からは「弊社の既存のビジネスモデルを超えた形で、いろんなことにチャレンジしてみたいんだけど、地元事業者とのネットワークが弱くて。。。」という意見も出されました。

そこで、事務局や表原市長と相談し、急遽市長も参加する形で「事業者マッチングミーティング」を開催することとなりました。

阿南市_マッチングミーティング

「民間事業者が民間事業者に向けてプレゼンし、チームアップを図っていく」ことを意図した取り組みで、実験的な要素も強いですが非常に面白い仕組みだと思いますし、表原市長も自らのFacebookで次のように発信されています。

#民間提案制度 イイ感じで動いてます♪
先だってキックオフした取組ですが、
さっそく様々な提案や問合せが寄せられています。
中にはかなり実現性の高い事業も。
今回はその可能性をより高め、さらには相乗効果をもたらすためのマッチング会を催します。
単独では困難なことも、誰かと組むことで解決できる場面も多くあることと思います。
タイアップ事業を考えている方、どのような提案なのか興味のある方など、ひとまず見に来るだけでも構いませんのでお気軽にご来場ください♪

阿南市_表原市長のFacebook投稿から引用

Ver.2.0

随意契約保証型の民間提案制度は、総務省や現場感覚のない学識等につまらないことを突かれながら少しずつ広まり、様々な自治体でのリアルな問題意識とリンクして進化し、近年では爆発的な広がりを見せています。
もはや「制度を持っている」ことではなく、「(それぞれのエリア・まちにあった)魅力的なプロジェクトを数多く創出」することに価値観がシフトしています。
一方で前述のように爆発的な広がりの弊害としての「劣化コピー」も出回っていることは紛れもない事実です。

今後、求められることは「提案制度をいい意味で収斂・昇華させていく」ことです。ホンモノの価値あるものにしていくためには、提案制度を通じて(更に言えば通じなくても良いのですが)オモロい・本格的なプロジェクトを全国各地で行政・民間がパートナーシップを組んで数多く創出していくことです。
行政側がどれだけ真剣に取り組めるのか、必死になって営業しつつ、事前相談で確度を上げていけるか、民間の受け止める力を持てるかといったことが問われますし、民間も安易・短期な利益だけに走るのではなく、「パブリックマインドを持って」利益は確保しつつも社会性・公益性の高いビジネスモデルを構築していけるか。こうしたことが問われています。

PPP/PFIの大原則は「対等・信頼の関係」です。
オモロくて魅力あるプロジェクトを創出していくためには、お互いがどれだけ力を出し合えるのか、それぞれのプロジェクトの魅力は相手側に依存していてはあがりません。
地域コンテンツ・地域プレーヤーがより積極的に提案制度を活用し、自らのビジネスを拡大していくための工夫も、既存の地域プラットフォームとは異なる形で再構成していくことなどが行われてくるでしょう。
事前相談のあり方や提案の審査方法などもまだまだ進化の余地はあります。

行政・民間共に真摯にプロとしてまちと向き合っていく、この当たり前のことが浸透してくれば、自ずと阿南市のマッチングミーティングなどのような「提案制度2.0」の世界が見えてくるでしょう。


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