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合理的なアメリカスタイル「餅は餅屋」

あたりまえのように始まる何気ない会話

週に1回の食料の買い出しで訪れた、大型スーパーでの何気ない一コマ。特売品コーナーに、最近時々購入しているカニカマの姿が見え、どれどれ?と商品ケースに近づいたときのことでした。既に近くで商品の品定めをしていた白人の叔母さまから、もの言いたげな視線が。。。「ん?なんか見られているな」って感じでした。と思った瞬間、やっぱり来ました、この質問。
「あなた、これ、買ったことある?」
指さしていたのは、カニの缶詰。カニと言っても所詮は缶詰で、カニカマ同様、カニのイミテーションでしょうね。初めてみた商品で、もちろん買ったこともないので「いいえ、ないです」と答えると、今度は通常のカニカマを指さして「私、これは好きじゃないのよねぇ」と続きます。とりあえず「そうですね、分かりますぅ」とかなんとかいってその場を終わりましたが、ふと考えてみれば、こんなシチュエーションって実はよくあるのです。想像するに、カニカマ目がけて近づいてきた私に気づき、白人の叔母さまは「お、いいところにアジア人の女性が来たわ。カニカマのこと知っていそうだし」って感じで、聞いてみたってとこなのでしょう。カニカマは日本発祥だし、アメリカでのカニカマの用途はカリフォルニアロール、いわゆる「Sushi」のイメージが強いですからね。多分、私はカニカマ通に見えたのでしょう。
餅は餅屋。

こんな感じで、たまたま居合わせたお客さん同士の会話がいともたやすく始まるのがアメリカです。「この卵が安いと思ったけど、値札が間違っているよね。ならばこっちの卵の方がお買い得よ」とか「キュウリはどうやって見分けているの?」とか「これ食べたことある?おいしかった?」とか。とにかく人と人との間の壁が低いのです。たまたま同じタイミングで入店した人と、その後店内で何回も顔を合わせ「I'm following you! (私、あなたの後をつけてるの!)」なんていうこともよくありますね。
私の母がそんな光景を見たら「知っている人?」と言うことでしょう。
 

アメリカ生活10年で、私も「餅屋」に!

私のアメリカ生活も10年たったということもあってか、それなりに板についてきたのかもしれないな、と思う今日この頃。というのも、最近になって、こんな他愛もない会話や質問に巻き込まれる頻度が確実に上がってきたからです。合理性を求めて「餅は餅屋」スタイルのアメリカ人が、アメリカ生活自体に馴染んでいないと見受ける、どこか緊張気味の餅屋候補をつかまえて、餅情報を求めようとは思わないでしょうからね。
それが今では、日系スーパーやアジア系スーパーに行くと、餅屋ポジションを期待されることも多いようで、突然の質問や意見を求められることが普通に起こるようになったのです。それなりにアメリカに馴染んできた証しなのかな。
例えば、日系スーパーでお茶漬けの素を手に「これってどうやって食べるの?ごはんにかければいいの?」と聞かれ、「いやいや、これはお茶漬けだから、ごはんにかけて、更にお湯を注いで食べるんだよ」なんていう風に。
同じくアジア系のスーパーで、冷凍の餃子の調理法を聞かれたこともありましたね。アジア系に限らず、おじいちゃんから突然牛乳の賞味期限を聞かれたこともありましたっけ。
日本にいる頃は、お店では店員さんと間違われて他のお客さんに呼び止められ、外では道を聞かれ、観光地では写真の撮影を頼まれるのがお決まり。きっと素の私というものは、そんな雰囲気を醸し出しているのでしょう。それが今、アメリカでも全開のようなのです。
決して、そんな突然の出来事が嫌ということはありません。ただ、アメリカでは英語ということもあって、咄嗟のことで十分に答えてあげられないこともあり、後になってから「ああ言ってあげればよかったな」なんて、軽くひとり反省会となることもたびたび。
でもですね、突然の出来事と言っても、共通した前触れはあるのですよ。それが、カニカマの叔母さまと同じく「あれ、なんか見られているな」の視線。つまりは「この人は餅屋か?」と品定めする視線ですね(笑)。特に今住んでいるエリアはアジア人自体が少ないので、目立つということもあるのでしょう。最近は品定め視線には気づくようになったものの、最低限の返答しかできていないのがちょっと悔しいところ。時には気の利いた冗談でも言えるようになるのが次なる目標です!

パンはパン屋、コーヒーはコーヒー屋

餅は餅屋、アジア系商品はアジア人、パンはパン屋ということで、ベーカリーで働いていると、当然のことながらパンについて聞かれる機会は多々あります。毎朝、粉と水から作っているパンについては大抵のことは答えられますが、ちょっと困るのが「あなたのお気に入りのパンはどれ?」という問いかけ。まぁ、言い方を買えれば「おすすめはどれですか?」ということなのでしょうが「あなたのお気に入りは?」と言われると「私のでいいんですか?」という気持ちが過ってしまうのです。一口にパンとは言え、人それぞれの好みはあるし、パンを食べるシチュエーションによっても選択は変わってきますからね。それでも具体的に答えたほうがよさそうなときは、その日の良い焼き上がりのパンをおすすめするようにしています。

餅は餅屋にならい、パンはパン屋に聞くのは確かに合理的。
そういえば私も、日本へのお土産のコーヒー豆を選びかねて、いささか途方にくれていたとき、たまたま商品の補充に来ていたベンダー(卸し)のお兄さんが親切にも「質問ある?」と声をかけてくれたことがありました。とっさに「大丈夫です」と答えてしまったものの、ふと考えればこの人はまさしく餅屋。ということで、早々に「大丈夫です」を撤回し、アドバイスを求めたところ、まさに餅屋ならではの情報が出てきて、とても助かりました。
やっぱり、コーヒーはコーヒー屋。

「餅屋」に見えたようですが… 

私が働いているベーカリーは、パンの商品ケース横で、大きなデッキオーブン正面となる位置、店内に面した小さなのスペースから、お客さんが中では働く私たちに対して「すみませーん」と声をかけることが可能になっています。とはいえ、接客用のカウンターということではなく、私たちにとっては作業スペースなので、正直なところ、お客さんからの「すみませーん」はない方が仕事ははかどります。まぁ、残念ながら「すみませーん」対応も仕事のうちなので仕方がないのですけどね。
随分前になりますが、私がそこでひとりで作業していると、例のごとくその隙間から「すみませーん」の声が。なんぞや?と思って近づくと「すみませーん」の白人のおじさんから、当然のおももちで聞かれた質問がこれ。
「ワンタンの皮はどこにありますか?」
は?ワ、ワンタンね。あのぅ、ここはベーカリーなんですけどぉ…
残念ながらワンタンの皮のありかを知らなかった私は、お隣のお惣菜部門まで走り、キッチンスタッフに聞き、それをおじさんに伝えて一件落着となりました。
One more time. 
ここはベーカリーで、隣がキッチン。わざわざ接客カウンターでもないベーカリーの隙間から、ベーカリーで作業中の私に「すみませーん」したその心は「お、アジア人発見!ワンタンのことはこの人に聞こう!」だったのでしょうか(笑)。
期待に沿えなく申し訳ないのですが、ちょっと無理がありませんかねぇ。 

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