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奨学金代理返済記事を見た社労士的懸念

今後の新入社員採用を有利に進めるために、新入社員が抱えている奨学金の返済を直接企業が行う制度が注目を集めています。この制度自体は2020年に始まっており、ネットを検索するとその当時の記事が出てきますが、私は全く知りませんでした。今までも奨学金の返済を援助する目的で手当を出す会社があったと思いますが、その場合、給与に返済額を上乗せして支給する方法をとっていたため、その返済額分は「報酬等」と考えられ、所得税や住民税、社会保険料等が控除されるため、実際の手取り額が減ってしまい労使双方ともになんだかなぁと言う感じがする方法でした。
今話題になっている方法は直接企業が日本学生支援機構に支払いをするため、こういった控除がされないと言うメリットが挙げられています。

正直、そんなことを厚生労働省が許すのか?と言う疑問があったため、今回この制度が本当に「報酬等」の対象外として控除の対象とならない報酬として扱われるものなのか確認してみました。
2022年9月5日に厚生労働省年金局事業管理課長よりこれについての発出がされています。
これによると、事業主が被保険者の奨学金を日本学生支援機構に直接送金することにより返還する場合、当該返還金は「報酬等」に含まれるのかに対しての答えとして、

この制度を利用して、給与とは別に事業主が直接返還金を送金する場合は、当該返還金が奨学金の返済に充てられることが明らかであり、被保険者の通常の生計に当てられるものではないことから「報酬等」に該当しないが、事業主が奨学金の返還金を従業員に支給する場合は、当該返還金が奨学金の返済に充てられることが明らかでないため「報酬等」に該当する。なお、給与規定等に基づき、事業主が給与に代えて直接返還金を送金する場合は、労働者の対象である給与の代替措置に過ぎず事業主が被保険者に対して直接返還金を支給しない場合であっても「報酬等」に該当するとしています。
※一部、読みやすく改変しています。

これを見ると
①給与に上乗せして支給せず
②企業が直接振り込みにより奨学金を送金すること
③給与規定や賃金規定等の就業規則等の規定して事業主が給与に変えて、直接間間金を送金すると言う取り決めを作って返還換する場合でないこと

これが要件とされていると読むことができると思います。個人的な感想ですかこれを読むと、勝手に会社が判断して振り込みをするのであれば給料では無いから社会保険の対象としませんよと言ってるように読めてしまいます。まあ企業が勝手に振り込むと言う事は通常では考えられないので、対象となる従業員と話をして同意の上実行するのが当然だと思いますが、この場合、対象の従業員が短期に退職してしまった場合や企業が奨学金を代理で返済するための条件(返済をしている期間の退職の制限や一定の期間内に退職してしまった場合の返還措置)を設けることが難しくなってしまうのではないかと思ってしまいました。
今までも企業として、従業員の福利厚生や従業員の現状を憂いた同情の気持ちなどによって奨学金の返還を肩代わりしてあげるなどの措置をしている企業はありました。今後もそういった企業はあると思いますが、これを導入する企業の大半は現在発生している人手不足の解消をメインとして考える企業が多いのではないかと思います。そういった会社では、どうしても一定の条件をつけて返済をしてあげると言う取り決めをしたい考えるのではないでしょうか?過去にもMBAの取得や経験のため留学する費用などを会社支払った場合に同様な理由で返済を求めた揉め事はたくさん起きています。

また今後、年金事務所の調査等が入った場合、これを行っている企業に対して、この発出が守られているかどうかの確認もされると思います。そこでこの要件を満たしているかの確認により否定的な指摘がされた場合、過去にさかのぼって社会保険料の支払いを求められる可能性があることに注意が必要です。また、対象従業員が退職をしてしまったなどの場合賃金規定や労働契約書に奨学金の返済を会社側でしていると言うことを明記していないと代理返還していた奨学金の額を請求したいと思っても証拠がない等によって不利な判断がされる可能性も高いのではないかと思われます。そのため、この制度を導入する場合は、そういったリスクがあると言うことを念頭に制度設計をする必要があることに注意が必要となります。

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