食と韓国語・翻訳ノート4:깔끔하다(さっぱりする)
-옆에 육회를 곱게 썰어놓고 입맛이 깨금한 고초장을 조곰 얹습니다.
戦前に朝鮮で発行されていた『別乾坤』という雑誌の24号(1929)に、晋州のユッケビビンバがめちゃうまいという話が載っている。いまのハングル表記とは少し違うけど、上の文章はその一部で、ユッケをきれいに切りそろえ、コチュジャンをちょっと載せる、という内容。このコチュジャンの前に、ケグムハン(깨금한)という形容詞がある。正確にはわからないが、これはどうも、カルクムハダ(깔끔하다)の変形らしい。
髪切ったら[すっきり]したね。
머리 자르니까 깔끔해졌네.
話がややこしくなるから、[シンプル]に整理しよう。
이야기가 복잡해지니 깔끔하게 정리하자.
「カルクム」という形容詞はこんなふうに使う。すっきり、さっぱり、さわやか、シンプル。だいたいそんなイメージが「カルクム」だ。わからんのは「カルクムなコチュジャン」だ。わたしはコチュジャンの味を、「すっきりさっぱりさわやか」のカテゴリーに入れたことがない。
後輩の韓国人に聞いてみた。「ですから兄さん、あるじゃないですか、コチュジャンを入れると味がカルクムになるときが」。だからそれがわからんと言っている。そもそもカルクムを説明するのにカルクムを使うとは、この愚か者。説明できないとき、人は共感を求めてくる。
どういうふうに感じれば、レモンとか、ミントとか、ショートヘア―とか、空色のワンピースと同じ箱に、あの濃厚な、血のように真っ赤な、服についたら漂白するのがたいへんな、フォントでいえば太ゴシック体の、主張の強い味を入れられるというのだ。
味やにおいや色や形状に対して「感じる」ということは、それ自体の性質ではなくて一種の反応の表現だから、個々人で違うのは当然だ。それを事細かに表現するには単語がいくつあっても足りないので、言語化するときには同じグループの箱に入れるしかない。引っ越しのとき、衣類とか小物とか本とかの箱に入れるように。しぶいとか、かわいいとか、うさんくさいとか、癒し系とか、いろんな箱に入れる。箱の設定上の問題だから、なんでそれがエロいんだといっても、みんな「エロいものはエロい」という同義反復でしか説明してくれない。ビールの味と、野茂のフォークが同じ「キレがある」の箱に入っていたりもする。わかるようで、わからない。
とにかくこれのしくみを理解するにはえらく時間がかかる。日本人が言う「おいしい」と、韓国人が言う「マシッタ(맛있다)」は、たぶん、同じ箱ではない。だから食の翻訳は難しい。
暫定的に「味がはっきりする」にしてみた。もっとしっくりくる言葉があれば教えてください。
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