まちだのちまた

1972年生まれ、福岡県北九州市出身。韓国慶尚南道在住。民俗学者。昌原大学日語日文学科…

まちだのちまた

1972年生まれ、福岡県北九州市出身。韓国慶尚南道在住。民俗学者。昌原大学日語日文学科客員教授。 日本語教育と翻訳も。韓国での暮らし、学生たちのこと、翻訳、済州島のこと。備忘録。 2021年、周永河著『食卓の上の韓国史(식탁 위의 한국사)』日本語版を慶應義塾大学出版会より刊行。

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  • 関釜裁判のはなしとわたし

    ものぐさな日本人が、関釜裁判のアーカイヴ作業にかかわったはなし

  • 食と韓国語・翻訳ノート

    周永河著『食卓の上の韓国史』の翻訳ノート。

  • 帰国・再入国日記

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食と韓国語・翻訳ノート13:조선미(朝鮮米)

有名な映画の、ずっと気になっていた場面。そう、この場面だ。初めてアニメーションで見たときにどきっとして、あまりに一瞬だったので、また巻き戻して確認した。 『この世界の片隅に』は、劇場では見られず、しばらくたってからDVDを借りて見た。メディアの評判もいろいろ見たけど、あんまりここに触れてくれなかった気がする(町山智浩さんが言っていた気もする)。物語のクライマックス、玉音放送を聞いて、初めてすずが怒りをあらわにするシーン。そこに短いカットで、太極旗がひるがえる。 「飛び去っ

    • 邂逅の場へ #01

      日本人の記憶と日本軍「慰安婦」問題(01) 自分に見えるものしか見えない 坂本裕二脚本、 是枝裕和監督の映画《怪物》(2023)は、3部構成によって同じ現実を3つの視点から描くことで、「人は自分に見えているものしか見えない」ということ、つまり視点が違えば認知も変わるということを、緻密な演出で表現した作品です。こうした「羅生門構造」は✴︎、だれが被害者でだれが加害者か、だれが正しくだれがまちがっているかについての観客の二分法的想像力の限界をたくみに利用し、その認知の確実性を

      • ③地元のラジオ

        取材依頼を受ける MBC慶南から取材の依頼があったと学校に連絡が来た。展示「関釜裁判と終わらないHERSTORY(관부재판과 끝나지 않은 HERSTORY)」と、先日のセミナーに関することだという。わたしたちの共同研究者は数人いるのに、なんでわたしなのかと不思議に思ったが、いちおう主催者のひとりなので応じるべきだと思った。あとでわかったのだけれど、「慶南道民日報」という地方紙の記事を見て、わたしの話を聞きたいと思ったのだそうだ。わたしもそう言われて初めて記事を見た。 →

        • ②関釜裁判とはなにか?

          「関釜裁判」 関釜裁判とは、1992年12月25日に、日本軍慰安婦だった女性2名と、女子勤労挺身隊だった女性2名が、日本政府を相手に公式謝罪と賠償を求めて山口地裁下関支部に提訴し、始まった裁判だ。その後、第2次、第3次提訴でさらに原告が加わり、最終的に10名の原告となった。この裁判は1998年に一審判決、2001年に二審(広島高裁、控訴審)判決、2003年に最高裁が上告棄却の判断を下し、最終的に原告の請求はすべて棄却された。それでもこの裁判がいまでもいくぶん注目される理由は

        • 固定された記事

        食と韓国語・翻訳ノート13:조선미(朝鮮米)

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        • 関釜裁判のはなしとわたし
          4本
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        • 帰国・再入国日記
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        記事

          ①関釜裁判のはなしとわたし

          昨年の春、急に史学科の先生が研究室に訪ねてきて、研究プロジェクトを立ち上げるからいっしょにやろうと言われたとき、正直、一瞬たじろいだ。 「慰安婦問題」 関心がないわけではないし、自分なりの考えがないではない。けれど、ものすごく「めんどくさい」。この「めんどくさい」というのは、時間がかかるとか手間がかかるとかいうより(もちろんそれもある)、この問題について発言する人びとを見ていると、なんだかみんな傷だらけで、「炎上」だの「訴訟」だの、どうも血なまぐさいのだ。 ましてや、こ

          ①関釜裁判のはなしとわたし

          韓国で日本語を学ぶ人へ

          学期のおわりに 今日は「日本語会話3」の最後の授業ですが、意外にも早く内容がすんでしまったので、もうやることがなくなってしまいました。来週の期末試験は皆さんのスピーチですが、それを聞く前に、今日はわたしの話をしたいと思います。とはいえ、日本語の授業ですから、わたしと言葉のかかわりについてお話しします。 ところで、わたしが何年に生まれたか知っている人はいますか。昭和47年ですが、計算してみてください。そうです。昭和プラス1925で西暦ですから、1972年です。今年は2022

          韓国で日本語を学ぶ人へ

          日本渡航日誌(2021-2022)② 強制隔離(12月31日~1月6日)

          空港での長時間の検疫を終えて、乗ったバスが着いたのは、アパホテル博多駅筑紫口のセントラル棟だった。入国者は一人ずつ順にバスを降り、ホテルスタッフから必要な資料を渡され、注意事項を確認されて、それぞれの部屋に入る。小学生までは保護者と同部屋、13歳以上は各自の部屋を使うことになっているという。 隔離ホテル わたしの番になって、言われるまま9階でエレベーターを降りると、廊下にデスクが設置されており、そこで健康状態のチェック表と、さまざまな注意事項の書かれた資料を渡されて、それ

          日本渡航日誌(2021-2022)② 強制隔離(12月31日~1月6日)

          隔離メシ(福岡) ――欲しがりません出るまでは③(終)

          隔離4日目(1月4日) そろそろ揚げ物がつらくなってくる。ところでマカロニって、サラダなんだろうか。 隔離5日目(1月5日) 隔離6日目(1月6日) 6日目の朝は、コンセプトがわからずうろたえた。隔離もこのくらいになると、食べられるごはんの量が減ってくる。 6日目の昼食をもって、めでたく隔離メシ完走。ようやくシャバに出て自宅待機となる。 あたたかいごはんとは、なんとありがたいことか。食べ物を選べる自由とはなんとありがいことか。そういうことを学ぶ機会だと、せいいっぱ

          隔離メシ(福岡) ――欲しがりません出るまでは③(終)

          日本渡航日誌(2021-2022)① 帰国まで(12月31日)

          帰国までの流れ2021年の年末から2022年の年始にかけて、韓国の慶尚南道から日本の福岡県に帰国するわたしの場合、まず、韓国からの出国と日本の入国に必要な準備は、次のような感じになる。 ① 航空券(仁川発 福岡着)の購入(当然だけど) ② ワクチン接種証明書(再入国許可に必要) ③ 再入国許可 ④ PCR検査の陰性証明書 ⑤ Wi-Fiのレンタル予約 ⑥ 日本の検疫で必要なアプリのインストール(MySOS) ⑦ Visit Japan Webの必要事項の記入(ブックマークして

          日本渡航日誌(2021-2022)① 帰国まで(12月31日)

          隔離メシ(福岡) ――欲しがりません出るまでは②

          隔離2日目(1月2日) 韓国から来た身にとって、朝のあの粉末スープを「わかめスープ(미역국)」と言われると、ちょっとさびしくなる。さすがというべきか、妙に高菜を押してくるのは、やはり福岡。子供のころは、この黒ずんだ漬物がきらいだったが、いまは好物。九州を離れると、九州が好きになる。 隔離3日目(1月4日) 朝の汁もの、よく考えてみると、「中華スープ」って何なんだろう。味は、サッポロ一番「カップスター」のスープそのもの。鶏ガラのスープだから「中華」ってことらしい。のり弁に

          隔離メシ(福岡) ――欲しがりません出るまでは②

          隔離メシ(福岡) ――欲しがりません出るまでは①

          到着日(12月31日) 空港で抗原検査を受けて、結果待ちのときに「軽食」としてセブンイレブンのおにぎりが配られる。おにぎりはみな同じ種類で「ツナマヨネーズ」と「梅おかか」2個ずつ。飲み物は、緑茶・烏龍茶・りんごジュース・オレンジジュースのなかから選択。日本人はいいけど、半分が外国人というなかで「梅おかか」のチョイスってどうなんだろう。 ホテルに着いて一人ずつバスから降り、注意事項の説明を受けたあと、スタッフから差し出されたビニール袋には、カップヌードルやとんこつラーメン、

          隔離メシ(福岡) ――欲しがりません出るまでは①

          食と韓国語・翻訳ノート19:김밥(キンパ)/日本語になった韓国料理①

          「韓国料理っぽく怒ってください」昨年のIPPONグランプリ(第23回、2020年6月23日)の、予選Bブロックの最初のお題「韓国料理っぽく怒ってください」を見て、たまげた。 「チャンジャお前は」 「コップチャンと洗えよ」 「いまだチャプチェ見たことない」 「カンジャンケジャンスントゥプチシャ」 じっさいは韓国料理の名前を入れたダジャレがほとんどで、韓国語を知る人間にとっては、なんとなく気恥ずかしくなる大喜利だった。外国人が、「スシ、スキヤキ、サシミ、テンプラ」みたいな言葉

          食と韓国語・翻訳ノート19:김밥(キンパ)/日本語になった韓国料理①

          食と韓国語・翻訳ノート18:떡(トク)

          トク=もち?韓国のコンビニでいつからか見かけるようになった、「もちロールケーキ(모찌롤케이크)。日本のローソンの「もち食感ロール」の韓国版で、日本への旅行者が増えるなか、日本のコンビニスイーツのなかで評判のいいものが、大企業のマーケティングを通して、こうして入ってくるらしい。 それはそうと、日本のもちをあらわす「モッチ(모찌)」という言葉は、すでに韓国語といっていい。モッチって何ですかと問えば、「日本のトク(떡)」だと答える。あるいは、「日本のもち米のもち(일본 찹쌀떡)」

          食と韓国語・翻訳ノート18:떡(トク)

          街場の比較文化:フリートークの授業から

          2021年5月20日、韓国、昌原大学の3年生の会話の授業のフリートーク、テーマは「習慣の違い」。ゲストに大妻女子大学の厚東芳樹先生と、学生さん2名が参加。なかには日本に行ったことのない学生もいる。こういうテーマで出てくる話はお決まりのことも多いけど、ときどき、ステレオタイプこみで、ほんとかよ?という俗説も含めて、ああそういえば、という発見もある。 日本人は、食事を終えた後、皿を重ねる。 発表者:Yさん。 ①日本人は、はしで食べ物をわたす行動をしない。 ②日本人は、出された料

          街場の比較文化:フリートークの授業から

          食と韓国語・翻訳ノート17:국(スープ)

          ラーメンを煮てくれ何年か前、『食卓の上の韓国史』の著者・周永河と済州島に滞在したときのこと。関係者と会食して夜も更け、さあ宿舎に帰ろうというときに、先生は「ラーメンが食べたい」と言い出した。「おまえの部屋で食おう。ラーメンを煮てくれ(라면 좀 끓여줘)」。ラーメンを煮る、とは日本語ではおかしいが、韓国語ではラーメンは煮るものだ。韓国でラーメンといえば、もちろんインスタントラーメンのことで、だからもちろん家で食べる。数年前あるドラマがきっかけで、「ラーメン食べよう」は、男女が一

          食と韓国語・翻訳ノート17:국(スープ)

          帰国/再入国日誌④ 2021/02/12

          PCR検査前日に連絡があり、予約していたPCR検査に出向く。隔離後の初めての外出となる。10時の予約で、保健所まで歩いてだいたい20分ほどなので、9時30分ごろ家を出る。 しばらく歩いていると、スマホのアプリから、「隔離場所を離脱しました」「位置を確認してください」というアラームが入る。たしかに外出だけど、前日に担当部署に連絡を入れてある。歩いていくことも言った。でも。 やや不安になる。急に白い服の人に囲まれて拘束されたりするんじゃないか。まさかな。悪いことはしてないけど

          帰国/再入国日誌④ 2021/02/12