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街場の比較文化:フリートークの授業から

2021年5月20日、韓国、昌原大学の3年生の会話の授業のフリートーク、テーマは「習慣の違い」。ゲストに大妻女子大学の厚東芳樹先生と、学生さん2名が参加。なかには日本に行ったことのない学生もいる。こういうテーマで出てくる話はお決まりのことも多いけど、ときどき、ステレオタイプこみで、ほんとかよ?という俗説も含めて、ああそういえば、という発見もある。

日本人は、食事を終えた後、皿を重ねる。

発表者:Yさん。
①日本人は、はしで食べ物をわたす行動をしない。
②日本人は、出された料理を残す行動を失礼だと考える。
③日本人は、食事を終えた後、皿を重ねる。

①わたしは韓国に来てから、いかにこのタブーが自分に強く働くかを知った。ここは韓国だから大丈夫ですよと、ニコニコしながらはしで食い物を渡されても、そういう問題じゃないんだよ。

②日本人は作ってくれた人への礼儀から、ものを残さず食べるという。いまもそういう教育ってあるんだろうか。そうじの時間までひとりで給食食わされるみたいな。わたしは高校の寮生活で、残してないか見張っている先輩がこわくて、おかげで完全に偏食がなくなった。

③日本人は家ではもちろん、外食時には従業員の作業を慮って、皿をまとめ始めるのだという。たしかにこれ、見る気がする。逆に、韓国で客が食べた後のテーブルのおっちらかったありさまを見て、引く日本人もいたっけな。韓国で皿なんか重ねたら、こいつ早く帰りたがってると思われるらしい。なんだろうね。ひとつは、散らばっているものをまとめたい欲求。縮み志向? いや違うな。もうひとつは、客だからといって食うだけ食って動かないのは、なんだかえらそうに見えるんじゃないか、という感覚。韓国で、店でお茶とか水とか持ってこようとして、止められたこともあった。目上の人がやると、軽く見られる。でもこの感覚、韓国では高速で変化しているので、注意が必要。逆にじっとしていると、古いやつだと思われる可能性もある。

日本では、女性があぐらをかくのは無作法である。

発表者:Sさん
①日本人は、茶碗を手に持って食べる。(韓国ではテーブルにおいてスプーンで食べる)
②日本では、はしをテーブルに置くとき、横に並べる。(韓国では縦に置く)
③日本では、女性があぐらをかくのは無作法である。(韓国では、床に座るとき女性もあぐらが基本)
④日本では、片膝を立てて座るのは行儀の悪いことだ。(韓国では韓服での立膝はむしろ正しい作法である)

①でもこれ、Sさん自身も「家では茶碗をもって食べる」というから、けっこう韓国のほうもゆるい気がする。ただ、持って食べるのが「乞食のようだ」という認識がなくなったわけでもない。わたしは日本人だから、家で麺類なんか食べるときは丼をもって汁をすすりたいけど、韓国で売っている器は、器の底の出っ張り部分(高台というらしい)が、ないか、あってもぜんぜん断熱にならないくらい薄い。だから熱くて持てない。一度、ある団体が日本人ゲストへのおみやげに利川の立派な沙鉢を渡すのを見て、なんとなく気の毒になった。立派だけど重いし割れ物だし、底に出っ張りがない。あれを日本で使うとしたら、サラダボウルの一択になる。韓国人が器を持つときは、だから、マッコリを飲むときのようにへりの向こう側をわしづかみにする。めちゃワイルドである。

③女子中高生が制服のスカートの状態であぐらをかくのは、最初こそびっくりしたけど、別にふつうである。「見えるじゃないか」というかもしれないが、見えない(前にかばんなんかを置いたりもする)。逆に、日本人がスカートで自転車に乗っているのを見て、顔を赤らめる韓国人は多い。「見えるじゃないか」。意外と見えない。それより多くの韓国人は、日本人の正座を見てひざを痛めるんじゃないかと心配し、「女の子座り」を見て、腰を痛めるんじゃないかと心配している。

④はよく言われますが、昨年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で、帰蝶や細川ガラシャが立て膝座りをしていたのは、けっこう話題になった。時代考証の小和田哲男先生の説明もある。絵巻物なんかを見ると、戦国時代の身分の高い女性の作法として立て膝は正統だったらしい。つまり身振りは変化するので、そのうちあぐらなんか当たり前になってるのかもしれない。

日本ではカレーライスを混ぜない。

発表者:Cさん
①日本では、玄関に靴を並べるとき、内側から外側へ一定の規則で並べる。(韓国にはそういう規則はない)災害が多いのですぐ逃げられるようにしているのではないか(仮説)。
②日本ではカレーライスを食べるときに混ぜない。(韓国では混ぜる)
③日本では気配りのため、外部との会話で、自分の属する集団の主語に尊敬語を使わない。(韓国では相手がだれでも尊敬語を使う)。

①まあ確かに。でも大学時代に男友達が押しかけてきて、家でゲームしてるときなんてのは、あんま変わらないんじゃないの?とも思う。ただ、よそにお邪魔したときに、玄関で一度振り返って、自分の靴の方向をととのえるくらいは、日本で生活するなら覚えておいてもいいかもね。

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②さて、このカレー問題。少人数のグループトークで聞いてみると、韓国人学生4人のうち、一人は完全に混ぜる、二人が食べるところだけ部分的に混ぜる、一人はまったく混ぜない、という。これは世代差があるので、わたしと同年代のおじさんおばさんだと、3対1で混ぜそう。混ぜたほうがうまい、混ぜたらおかゆみたいで食えたもんじゃない、という論争に、何度つきあわされたろう。これをつきつめていくと、「なんにもかかっていない(つまり味のない)白米部分にどうしてそんなにこだわるのか」「白米そのものの味を感じないなんて、なんて不感症なんだ」という銀シャリ vs ビビンバの根の深い違いかもしれない。

でも、それも変化はする。いわゆる日本式カレーが韓国にぽつぽつあらわれはじめたのは、2000年代のはじめだっただろうか。こだわりの強い店では、店員が「絶対に混ぜるな」と念を押し、ずっとこっちを監視していた。逆に、そんなにこわい顔で強制しないで好きに食わせりゃいいじゃん、と思ったくらいだ。いまでも、大学の食堂なんかでカレーが出ると、まったく混ぜないわたしと、完全に混ぜる同僚が向かい合って、おたがい干渉せずに食べている。強要さえしなければ、習慣の違いはおもしろい。

補遺:韓国にはパジャマのまま顔を隠してコンビニに行く若者がいる。

トークの最後に、日本人の方に質問があるという子が発言し、「日本ではスウェットやパジャマのままコンビニに行くのはダメですか」という。ああ、深夜に見るあれね。カップルで来ていて、男子のほうは短パンにTシャツにサンダル、女子の方が着ぐるみみたいなパジャマでフードを深くかぶって顔を隠し、トイレのスリッパみたいなのをはいて、ビール買っていく、あれね。あれは日本にはいないかもしれない。逆にすごいヤンキーはいるけどね。話はそこから、試験期間中の、これも女子学生の服装に広がっていった。さっきまで家で勉強してたのか、ベッドからそのまま出て来たような出で立ちで、もちろんすっぴんで、帽子をまぶかにかぶっている子、いるいる。出席簿見ながら、本気で「うちの学生ですか」と聞いたこともあった。「信じられない」という表情の大妻の学生さん。ああ、そうか、大妻だったらなおさらか、とそのとき気づいた。

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