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雲の愛好家

吉行理恵『湯ぶねに落ちた猫』を読む。

猫を愛する文筆家は世の中にたくさんいるが、自身がこれほどまで「猫に近い」文筆家には初めて出会った気がする。

尾崎翠のファンでもあった彼女が、飼い猫にも「雲」と名づけるほどの"雲の愛好家"であることは、とても自然なことに思える。(尾崎翠はいわば"風の愛好家"だったから)

このエッセイ集では、尾崎翠に触れられていないが、滲み出る著者の人間性は、どこまでも尾崎翠に近いように思われてくる。

著者の姉は、映画「第七官界彷徨〜尾崎翠を探して〜」で尾崎翠の親友・松下文子役を演じた吉行和子である。

耳鳴りのようなものが離れなくなり、視力が衰えたように思いはじめると、私は普段でも口べたであるが、ますます喋れなくなってしまう。…人間とも、海辺の風のように、さらっとして、べたべたしないつきあい方が望ましい。言葉が通じ合えば嬉しい。

「風」

あまりにも強い感受性を持っていることは、当人を生きづらくする。彼女たちを尊敬し、友達になりたいと思うけれど、きっと遠くから消息を送り合う手紙が一番似合うだろう。彼女が本当に心を開けるのは、猫だけなのだから。


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