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[018]ひとりぼっちで恋をしてみた(3)|今月の一冊〈2020年6月〉


こんにちは、まっちゃんです。

ドラゴンボールも、ハガレンも、そしてワンピースも読んでいないゆとり世代の男性はマイノリティーだと思っているし、自覚してもいる。

人に比べてあまりマンガは読まないが、このマンガは個人的に心を打つものがあった。


①北見、女子高生、家出。

「北見」と聞いて、どこそれ?と思う方もいるかもしれない。

北見(きたみ)は、北海道の東部(一般に、道東と言いますが)の町である。

その北見市を舞台としているこのマンガは、正直で、嘘がつけなくて、ドンくさい女子高生・有紗が主人公。

周囲との感性の違いや自分の不出来さに嫌気がさしてしまい、家出をしてしまう…というところから物語は始まってゆく。


そもそも、田川とまたさんの『ひとりぼっちで恋をしてみた』(以下、『ひと恋』)に出会ったのは、ツイッターだった。

このツイートに目が留まったのは、単に「好きな絵のタッチだったから」という理由だったが、ツイートを読んだ後、その先の展開が気になり、気づけばブックオフで既に刊行されていた1巻と2巻を買っていた。

緻密に再現されている北見の町並みもさることながら、主人公・有紗のさわがしい心の動きや、家出してまもなく容赦ない現実にぶっ叩かれる有紗のクタクタ具合に、次第に心を奪われていった。

彼女の、素直で、愚直で、ナイーブなその一面が、家出先で出会っていく人たちの置かれている境遇に触れていく度、交わるはずのなかった者が交わった、交わってしまった、という感じを受けた。

変な言い方だが、琴線に触れてくるような気配をまとった、そんなマンガだった。


②自分を好きになることのタイヘンさ

ドンくさい自分がイヤで仕方がなかった有紗も、一方では、自分を好きになってみたいという気持ちを見え隠れさせる、いわゆる年ごろの女の子である。

思春期特有(?)な心の揺れ動きによってか、とりあえずこの主人公、物語の半分くらいは泣いている(気がする)。

本当に、青春というか、甘酸っぱいというか、1巻はそんな気持ちにさせられたし、密かに推していた学校の先生と少し気まずくなって勢いで家出を決行してしまうあたりは、甘酸っぱさ全開だった。

家出後も、現実の非情さ、自分の無力さ、そしてそこに道東特有の厳しい冬の寒さが相まって重なり、あっという間に心が折れちゃうところはまた、有紗らしさを感じる甘酸っぱいシーンだった。


苦しみながらも自分を好きになろうと一進一退の攻防を(自分の中で勝手に)展開していく様子はこのマンガの核と言える部分だと思うが、上向いたと思った矢先の、気持ちのへし折られ方はまさに鮮やかで、リアルに描かれている

しかし、嘘のない素直さが滲み出てしまっているせいか、それを上回る有紗の清々しさは、紙のむこうからも感じた。

読んでみて、「純粋すぎてまぶしい…(汗)」と思わないあたり、まだ自分も若いのかも、と思ったが、なにより様々な境遇を持つ人に出会うことで、少しずつ、しかし、着実に変わっていく彼女の持ち前の素直さが柔軟さに変化していく様は、これが「予定調和に作られたストーリーだから」と侮ってはいけない印象を強く残した。

確かに、「学校で凹んで→家出をして→人に助けられて→……」というある種お決まりのような展開の物語だが、どうもそれで済ませてはいけないような感じに包まれたのだった。

「自分と向き合う」ということがタイヘンな理由のひとつに、「年齢」があると私は思っているが、作中の有紗もまた、若くして(若いながらも)自分を知っていく作業、成長の過程でもがき苦しんでいる様子だった。

ともすれば、有紗と同じような現実をいま自分も突きつけられているような、そんなリアルがちゃんと描かれていて、素敵な作品だと思った。


③“駆け抜ける”ような作品

個人的に「いいマンガだ…!」と思うものは、たいてい涙なしでは読めないものが多い。

「涙なくして」なんてフレーズはもはや、年齢的なものでしかないと思っているが、それ以外の要因を探すとすれば、それは同時に強いメッセージが含まれているからだと思う。


私の愛読するロングランマンガに『名探偵コナン』というマンガがあるが、100巻に迫らんとするこの超大作に対しては、“それなりの満足度”を想定した上で毎度コンビニで購入している。

『コナン』には、特段ハードルの高いものを求めるようなこともしないし、だからといって、期待外れと思うようなことも、ない。

通い慣れたラーメン屋にいく感覚に割と近いかもしれない。

だから、もはや『コナン』に求めるものは、「文字少なめで頼む!」とか、「ラストはいつやねん?」とか、そういうツウな感じの要求になってしまう。


『コナン』のように、フルマラソンどころかそれよりも長い距離を走っていくようなマンガとは明らかに一線を画している『ひと恋』を推しているのは、人気の有無とか、発行部数の多寡とか、そういった狭い次元の話ではないだろう。

スプリント一本勝負、いわば短距離走のように“駆け抜ける”作品は、今後のストーリー展開をそこまで緻密に考えずに済む点で、作者の強いメッセージを含ませることに注力できるし、実際にそういう作品は多い。

というか、短編作品は実際にそうなんだと思う。

この『ひと恋』も、その中に入るだろう。


もう10年以上も前になるが、青山景さんという方が描かれた『ストロボライト』、『チャイナガール』というマンガをご存知だろうか。


今回、『ひと恋』を読んでまた読みたくなってしまったこの2作品。

クローゼットの奥からガサゴソと探して、見つけ、読んでみたわけだが、それぞれ1巻モノのその2つのマンガは、どちらも登場するキャラクターを最少人数に留めながら、やはり、強いメッセージを持っていたように思う。

両作品とも、1巻という短距離の中で、綿密に人間模様や心情をうまく描き切り、かつ、読んだ後に少々考えさせられるメッセージ性を含んだ、まさに“駆け抜ける”作品だと言える。
(ぜひブックオフで探してみてほしい)


ひとたび読み終えると、寂しいというか、悲しいというか、そんな感傷に浸されてしまうのは、マンガに限らずいわば読書の醍醐味ともいえるのかもしれない。

“駆け抜ける”作品のウィークポイントをあげるとすれば、そこだと思う。まだ読みたいのに、終わってしまう悲しさは何とも言えない。

『ひと恋』3巻巻末の次巻予告を見ると、どうやら4巻がラストのようだった。

有紗が駆け抜けた先には何が待っているのか―。

それがたとえお決まりの展開だとしても、彼女が進もうとする次のステップに期待したいと思う。


『ひとりぼっちで恋をしてみた(3)』(田川とまた/講談社)

目 次
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