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[015]2020年6月30日にまたここで会おう|今月の一冊〈2020年4月〉


こんばんは、まっちゃんです。


春先からできる限り、文字に、情報に触れていこうと思い、大学院で使用するテキストやら新書やらをあたってはいるが、なかなか時間が取れずにイライラ、ドギマギしている状態が続いている。読んでおーわりっ、となってしまってはあまり意味がないが、読んだ後の爽快感に久しく会えていない。
本を読み終えると残る、あのなんとも言えない悲しさは、みなさんにも共通してあるモノなのだろうか。
特に、駆け抜けるように読んだときはその感情が襲ってくる。

ちなみにこれも、その一冊だった。


①教養の役割

私が瀧本哲史さんを知ったのは、たぶん大学1年生の頃だったと思う。

「20代や30代、次世代への教養を」というふれこみに合った“ジャケット”を採用していた星海社新書が書店に平積みされていたこともあったが、その星海社新書の創刊を飾っていたのが、瀧本さんの著書だったからでもあった。

本書を読んだ後、後悔したのは、同社創刊となった『武器としての決断思考』をちゃんと読み終えていなかったことだった。

それを学生の時分に読んでいればいまはもっと違ったかもと思わせられた、瀧本さんからの最期のメッセージであった。
残念ながら直接お会いしたことはなかったが、教養という武器の今後の役割や教養がどうして必要であるのかをダイジェストのような形で、知ることができる本書。
当時大学で学んだ講義から現職での考え方まで、経験してきた具体的な風景に落とし込み、当てはめることができた。


職業訓練色の強い課程をもつ学校を現在の職場としているため、どうしても専門的な知識や実践的な技能を学ぶのに、学生も教員も、時間や意識を投じがちだが、そういった環境下だからこそ、教養を学ぶきっかけを学校は担保し、そして学生もそこに興味を持たなければいけないな、と改めて感じることもできた。



②右手にロジック、左手にレトリックを

本書にはこの言葉が小章立てされていたが、これに倣えば、まさに、私の上司は「両手にロジック」のタイプと言える。

上司の経歴から論理的に考える傾向が強いというのは理解できるが、いかんせん話が上手ではなく(=コミュニケーションが苦手)、上司と部下という関係性を鑑みて「ロジックが通っているなら…」と思って日々やり過ごしてはいる。
しかし、そのロジックに辿り着くまでがえらく長い場合が多く、レトリック(修辞)と言うにも憚られるレベルで情報の伝達に手数がかかることがほとんど。
まさに「両手にロジック」状態になったりしているのだった。


瀧本さんは本書内で、オバマ前米大統領の演説を例に挙げ、ロジック(論理性、一貫性)とレトリック(話のうまさ、言葉の使い方)の両方を携えることの重要性を説いていた。
これは、多様性や複雑性を増すいまの世界において、人と人との間で「交渉」が必要となっていく側面があるからだという。
自らの主義主張に同意してもらうためには、対話の中に「交渉」という武器を持っていないといけない、といった内容であった。(ざっくり)

ここの部分を読んだときに真っ先に浮かんだのが、さっきの身近な例だった。「そりゃ、伝わらんわ」と一蹴できた感じがして個人的に超スッキリした。



③「交渉」が必要な時代へ

奇しくも、在学中の大学院では「交渉」や「合意形成」といったことを扱う講義も取っており、いいタイミングで本書を読めた気がしている。

私のアカウントの前記事『[014-1、2]教育と公共政策の狭間で』では、SNSの誹謗中傷を例にあげ、教育の観点と公共政策の観点から私の感じているニュアンスをふんわり書き残したが、前者が「対話が必要」であるとしているのに対し、後者は「交渉が必要」としていたと思う。

どちらも「他者との関係性」について言っていることは変わりないのに、他者の捉え方や事態の観察の仕方が違っていて、それによって事例の見方もガラリと変わり、考え方もぐぐぐっと変わることを知った。

そして、本書によって、後者の必要性を強く感じることができた。
相手の対話姿勢に頼る前者だけでなく、言ってみれば融通の利かない相手のツボを見抜きどう解きほぐしていくかを考えて行動する後者の考え方がやはり、どうしても必要になってくるんだと、自分を納得させることができた。



瀧本さんは本書(本講義)の終わりにこう呼びかけている。

「だから僕はとりあえず2020年までは日本にチップを張ってみますが、もしダメなら脱出ボタンを押して…(中略)でも、そうせずに済むように、8年後の今日、2020年の6月30日の火曜日にまたここで再び集まって、みんなで『宿題』の答え合わせをしたいんですよ。」

「きっと何か自分のテーマを見つけて、世の中をちょっと変えることはできるんじゃないかと僕は思っております。なので、2020年の6月30日までに、やはり何かやりましょう。僕もそれまでに何かやりますので、みんなで答え合わせをしましょう。」

6月30日に「再決起」するはずだった約束は叶わなかったが、本書の参考になった講義風景はありありと想像できたし、行われるはずだった6月30日の講義もなんとなくイメージできたような感じがした。

予期せぬコロナ禍で「再決起」もままならなかっただろうが、こんな時だからこそ「2020年6月30日」が開催されてほしかったという読者の嘆きと同時に、いや、それは瀧本さんが一番望んでいない答えだ、と思い直した読者は多かったのではないだろうかと思う。


軽快に読める、オススメしたい一冊。

(追記6/13 日本経済新聞 6月11日付)

『2020年6月30日にまたここで会おう』(瀧本哲史/星海社新書)

目 次
第一檄 人のふりした猿にはなるな
第二檄 最重要の学問は「言葉」である
第三檄 世界を変える「学派」をつくれ
第四檄 交渉は「情報戦」
第五檄 人生は「3勝97敗」のゲームだ
第六檄 よき航海をゆけ


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