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読書レポート『セールス・イネーブルメント』


所感

日本では意外と存在してそうで存在していない「セールス・イネーブルメント」の実用書。著者の前書は組織づくりや概念に立脚されていた印象でした。そもそもこのコンセプトが広義なので、それぞれが"これがイネーブルメントだ!"と言ってしまえば、そうなりがな節もあるものだけど、著書はさすがこの領域の専門家と頷ける教科書的な一冊でした。

Salesforceでイネーブルメントの旗揚げ役として従事されただけあり、0→1の立ち上げフェーズから社内浸透、イネーブルメント人材の育成・採用まで決して上流だけに終わらない内容。事業開発・Ops関連・管掌業務に携わる方は触れておいて良いと思います!

ここではいくつか個人的にポイントとなった点を備忘録として挙げています。ご興味がある方は是非、直接手に取って実務で試してみてください!

セールス・イネーブルメントとは何か?

本書では、「人の成長を通じて持続的な営業成果を創出する仕組み」とする

目的:営業の成果(売上・利益) 
└「スキル/知識」支援・目的に沿った適切な「行動」を促すための支援

ポイントは全体的な設計。断片的な施策や設計を起点にしてしまうと
営業成果のバラツキが生じてしまう。
引用元
起源を遡ると意外と古い。

セールス・イネーブルメント関連の調査レポート「CSO Insight」はSalesZineでも取り上げられています。

イネーブルメント領域でイケている会社群。
MODEL制度を土台とした事業部ごとでイネーブルメント制度・Ops組織を
内包している印象が強いです。

セールス・イネーブルメント導入背景

・コロナによる営業環境の変化対応
オンラインセールス、顧客にイニシアティブがある購買体験

・顧客の購買行動の変化
BtoBでは購買プロセスの57%が営業担当者に会う前にすでに終わっている
※スクラッチされた内容だが真理であり、BtoBでは避けて通れない真実


・CRO(Chief Revenue Officer)の広がり
日本ではまだまだ一般化していないが、端的に売上責任者という存在。収益部門のイネーブルメント施策を統括する。

STEP1 営業や特定の顧客接点部門でイネーブルメントの型化
STEP2 それを横展開

セールス・イネーブルメントはあくまでも営業領域なんですね。
もといSaaSに代表されるサブスクモデルではARR、LTV、ユニットエコノミクスを追求する以上、レベニューに貢献する部署は多岐にわたる訳で。

イネーブルメント市場

LinkedInでは「Enablement」職種が2016年→2022年で4倍以上に増加
平均年収も2022年のグローバル調査ではなんと1,600万(💲119,228)。欧米・欧州の金額を総合的に換算した年収で日本より給与水準が高いことを考慮しても、かなり期待されている職種と言えます。

そもそも全体最適を行い人数が増えレバレッジが効き、収益へのインパクトも大きく、SMBや中小零細でトップセールスに依存する環境から脱却したい会社にとっては、緊急度の高い命題を掲げるからこそ今後も給与水準は上がる傾向と考えられます。

書籍「転職の思考法」で紹介されていた"マーケットバリューの測り方"でいうところの、技術資産にダイレクトに紐づく専門性がイネーブルメント職といった感じでしょうか。

しかも、現在イネーブルメントの重要性に気づき積極採用(育成)している企業はその業界の生産性やTAMが大きいケースが往々にしてあるため、そうなると2軸は担保できていると言えます。

また、組織横断による社内人脈形成・社外での交流会やセミナー・イベント登壇でのつながり、BPOや代行業務まで広げると人の輪も自然と広がり、結果的に人的資産も磨きがかかる無双の可能性があります。

この構成要素は抑えておきたい。

また、SaaS全体の市場については資金調達の全体金額、ポストユニコーン企業の台頭、ARR200億超えの企業の存在感など全体の市場感はまだまだ伸び盛り。わかりやすくまとまっているこちらの調査結果にある通り、"非SaaS"な我が国であることは否めません。

2022年の国内における受注ソフトウェアとソフトウェアプロダクツの合算額は11.5兆円であり、巨額である。一方で、国内上場SaaS企業28社の売上合計額は、2,485億円に過ぎず、全体に占める比率は非常に小さい(2023年直近時点)。

Next SaaS Media「Primary」より

セールス・イネーブルメントの業務と役割

役割①
「型」の提供と浸透 ※具体例抜粋

担当者軸
 ・営業データや育成施策の結果分析から見た課題の提起
 ・次の四半期のイネーブルメント施策の企画提案
 ・トレーニングの実施、営業との1on1コーチング支援
 ・営業チーム定例会、営業マネージャーとの1on1を通じた関係構築
マネージャー軸
 ・営業実績/イネーブルメント施策のデータ分析&営業組織課題の提起
 ・次の半期のイネーブルメント施策の企画提案
 ・営業マネージャーとの1on1コーチングを通じたスキルアップ支援
 ・営業役員会議参加を通じたイネーブルメント組織や取り組みの認知向上


役割②
営業を側面支援するコーチ
→参謀役としての立ち位置。

役割③
ナレッジを流通させるハブ
→イネーブルメント担当者は営業部門内外との結節点を担うことが多い

イネーブルメント施策の構築と実践

Plan
ロードマップを描くことが大切。特に左上のPlanがどれだけ具体的かどうかで施策の成否・運用効果が左右される。

図解が多い書籍です。体系的に整理されていてとっても読みやすいです。
そのままの汚い画像ですみません‥

注力領域(営業戦略の枠組み)

計画を立てる上で大切な3つの柱(顧客・製品・売上比率)

「どの顧客から、どの製品で、どのくらいの売り上げを上げるのか」計画する
Salesforceだとプロダクト・イネーブルメント(製品ごとの戦略)が顕著。

加えて、営業指標の整理も忘れずに。

-営業アウトプット-
 ①商談数
 ②商談単価
 ③受注率
-投入リソース-
 ④商談期間
 ⑤(TPO)営業人数

上記の指標と先ほどの営業戦略をプロットするとこんな感じに。

縦軸:営業指標(モニタリング対象) 横軸:注力領域

顧客視点で営業活動を管理

Do/See

必ず主語は「営業」ではなく、「顧客」にすることが大事。マネジメント層がメンバーの商談進捗を確認する際に、主語が営業や自社視点になるとそもそも顧客の購買プロセスと紐づいていないため結果的に顧客の購買体験は下がり、受注率にも大きく影響する。

NGな確認。これだとメンバーも疲弊しますし顧客も離れる時代です‥
「今日、何件のアポを取った?」
「顧客ヒアリングで聞けたことは?」
「目標達成のためにいつまでにこの案件を受注する必要があるのか?」

検討プロセスを言語化するとBtoBプロセスでは必然的にフェーズは6〜9にはなるはず。

営業フェーズは誰が見ても正確に把握できるようフレームを用いて言語化しておく。

フェーズ設計のポイント
①そのフローのゴールを定める(フローの入口よりゴールがお勧め)
②想定される顧客の状況を書く(ペルソナ設計と購買シーンの解像度設定)
③顧客の状況に対する営業アクションを整理(やったか/やれていないか)

SFAのオブジェクト項目として入れておく。フェーズは共通言語にする。

手前味噌ながら、この辺りは自身もかねてより営業現場で実践していました。運用を進める中でメンバーが正確に状況を把握し顧客と向き合った結果、施策の考案(個別提案書の作成、ROIシミュレーション、提供コンテンツと課題の相関設計etc)キーマンへの商談展開、合意形成上で障害(壁)となりうる要素の特定からカウンター提案など「営業アクションの型化」が進みました。

営業フェーズ設計については、「無敗営業」の高橋さんもこの動画で6から9つが最適と言われていました。

各フェーズの言語化が進むと営業の"自分ごと化"も醸成される。

イネーブルメント・スキルマップ(あるべき営業スキル体系)

書籍では、自社の営業の勝ちパターンを反映したスキル体系として紹介。
構造は「営業フェーズ」「Key Action」「スキル/知識」

図解はSalesZineさんから引用
https://saleszine.jp/article/detail/4308

①営業フェーズ:いま、顧客はどんな状態か把握できている/できていない
②Key Action:できる/できない(③とセットで紐づける)
③知識:知っている/知らない(②とセットで紐づける)

著者も言われているが、営業は総合的な技術やセンス(=アート領域)が問われることは否めません。ただ、ここでは「型」を決め、愚直に取り組み習慣化することで再現性を持った特定のアクション(これをスキルと呼ぶ)を引き出せるようになることの重要性について言及されています。

著者の推奨設定数は15個前後。これ以上多くなるとワークしづらくオンボーディングにも影響が。

Key Actionの策定を進める中でハイパフォーマーに聞く。
ハイパフォーマー選定のポイントは、「達成すべき営業成果との整合性の観点」「あの人のノウハウ」「特定の得意領域をもつ営業の知見を活用」

特に社内にハイパフォーマーが不在の場合はAs-Is(現状)からTo-Be(理想)像を考え、そのロールモデルとなりうる営業に焦点を当てる。

スキルマップをTierや対象者で分けることも大切。ただし、多すぎると煩雑となるため、共通項はなるべくまとめてシンプルに構成する。


スキルマップは営業マネージャー、メンバーとレイヤーごとで構成することも大切。

営業マネージャースキルマップ例:
〈ディールマネジメント(Deal Management)〉
営業のチーム達成計画の立て方
・営業フォーキャスティング(売上予測)とリカバリープランの立て方
・KPIモニタリング

〈ピープル/チームマネジメント( People/Team Management)〉
営業チームビジョンメイキングと浸透
・営業スキルのコーチング(※)
・後継マネジャーの育成支援 

※コーチングとティーチングのちがい
ティーチング:
知識(知らないこと)を教えること
コーチング:(知識があることを前提に)相手が主体的にゴール達成ができることを支援すること

営業マネージャーは必ずしも全て「教える」必要はない。
イネーブルメントチームに教えることは任せ、コーチング主体でリソースを集中させる。
主語が「We」(自社視点)ではなく、「顧客の意思決定プロセス」になると、レビューからコーチングの領域に。

ナレッジマネジメント

役割:
営業活動ですぐ使える最新の武器(ツール/ノウハウ)を提供し、
営業の商談獲得に貢献すること

この領域に特化しセールス・イネーブルメントを推進するツールも最近目立っていますね。

①営業フェーズに即してナレッジを準備する
②営業スキル改善に関するナレッジを用意する
この2点をポイントにナレッジを整備することを推奨としている。


本格的にナレッジマネジメントに取り組む規模は営業人数が150名を超えたあたりとのこと。
拠点など部門が分かれた際にいかに滑らかにベストプラクティスが流通できる状態を作るか。

-注意点-
ナレッジは常に最新の状態に更新し現場に共有されることが望ましいが、
そもそも営業が自発的に動くインセンティブがない。
(営業活動、顧客対応、目標達成でマインドシェアが占められるため)

故に、ナレッジマネジメントを担いコミットする人(ナレッジマネジメントマネージャー)をアサインすることが重要。KPI設計からパーパスに即した文化醸成〜認知向上まで業務領域は企業のフェーズ、組織状態により可変だが幅広い。好例としてソウルドアウトさんのこちらの記事を紹介。

社内からアサインがすぐにできない場合は、評価制度に絡めてナレッジが集まるように仕向ける(ただ、これは自分自身の経験上でも評価割合などのバランスと上司がモニタリングし取り組みの定期的な啓蒙やメッセージングがかなり重要。小さなウェイトでは結局、動かないし「他のウェイトを占める営業成果に大きく影響するKPIを達成しているから軽視しちゃっても仕方なくない?」といった空気感が生まれてしまうことも‥)

まとめ(イネーブラーに合う人/キャリアについて)

以上、気になるポイントを挙げさせていただきました。セールス・イネーブルメントに合う人、合わない人、キャリア軸でのメリットなど整理されているので抜粋します。

イネーブラーに求められる3つの要素
【マインド】
(1)組織/人の成長と営業成果の「間を埋める探究心」が強い
(2)営業をサイエンスしたい(指向性が高い)
(3)組織/人の成長を通じて事業拡大に貢献したい
(4)自社のプロダクト・サービスが好きで多くの人に伝えたい

【スキル】
(1)物事の構造化・体系化
(2)スピーディな資料作成(営業コンテンツ作成)
(3)相手視点で伝えるコミュニケーション力
(4)プロジェクトマネジメント力
(5)社内ステークホルダーとの折衝力

【知識】
(1)事業戦略・営業戦略の理解
(2)指標・数値の理解
(3)営業の業務フローの流れ/全体感の把握
(4)自社プロダクトの理解
(5)セールステックの理解と実務経験(SFA/CRM etc)

前提、これらの適性を1人が全て兼ね備えていることはほぼない。
イネーブラー採用の際はまずは"マインド"を確認!

イネーブラーに向いていない人材(フィットしない特徴)
▼自己流タイプ
・自分の営業スタイル、成功体験に固執している。押し付けがち
・自らハイパフォーマーであるが故に、相手が「できない」気持ちが理解できない/寄り添えない
(いわゆるトップセールスタイプ。一定層多いですよね‥。アート主導でサイエンスできない/しない傾向と言えます)

▼あるべき論重視の先生タイプ
・営業現場の実態にそぐわない「あるべき論」を押し付けがち
(つまり、頭でっかちな人、営業への理解が弱い)
・実態に即した支援ができないため、営業から価値を感じてもらえない
(悲惨な顛末、、)

▼調整屋タイプ
・社内勉強会や社外トレーニングの日程調整に終始してしまう
・セールス・イネーブルメントの付加価値が示せないと存在意義を感じてもらえない

イネーブラーは営業現場に寄り添いながら前述のPDSサイクルを回していくことが求められる!

業務経験ごとのイネーブラー適性
-営業・マーケティング-
・営業の理解(ハイタッチ)
・顧客の理解(ロータッチ)
・プロダクトの理解(1:1,1:n,地上戦・空中戦それぞれのシーンごと)
-人事・人材開発(HR系)-
・人材育成の理解
-企画-
・事業理解
・数値分析
・組織横断の施策展開
-コンサルティング-
・体系化/構造化
・施策開発
・プロジェクトマネジメント

マインド+一部のスキルが備わっていれば採用要件としては良い!
ベースとなる経験があれば比較的短期間で自社文脈の知識習得ができる。

イネーブラーのキャリアの可能性(素養・習得スキルから見えてくるもの)
・事業視点で施策立案の考え方が身につく
・人材育成方法の理解
・物事の体系化
・部門横断の視点
・関連部門/ステークホルダーマネジメントの方法
・複数のプロジェクトマネジメント
・ソリューションセールスのメソドロジー
(SaaSや無形サービス、高単価製品は特に重要)

汎用性が高くどのポジションでも核となるものが多い。
PdM、BizDev、CxOを目指す上でもコアコンピタンスとなりうる経験が積めると言えそうですね!


(本筋に戻りますが)ともすれば、「セールス・イネーブルメント」という流行りの言葉を表層的に捉えたり、手段の目的化(情報の共有、育成業務のみに着地、計画立案のみに終始など)になりがちです。

あくまでも事業成長が最重要なKGIであり目指す麓の先にある景色であることを関係者間ですり合わせ共通コミットにしていくためには、事業成長への弛まぬ好奇心と熱量がマインドとしてMust to haveになると感じました。そこには、これまで当たり前だった「属人性」「一過性」「有効性」といった一部の先達や職人技によるハイライトに一喜一憂するのではなく、誰もが等しく成果を上げられる素晴らしい世界(環境)の実現イメージが含まれています。(これって本来ワクワクすることですね!)

最終章のケーススタディ内でユーザベースさんの解説内で「イネーブルメントポリシー」(※)の取り組みが紹介されていますが、受け入れ側の認識を合わせにいくことが実はかなり大切と思いした。
(※一例:わからないことはどんな些細なことでも遠慮なく質問・即回答しましょう)

どうしてもこうした取り組みは発起人やOps関連のチームが主導権をもって推進することで営業組織が受け身の姿勢になり、一方通行な構造リスクが孕んでいます。受け入れる側のちょっとした不安、不明点に寄り添うスタンスが信頼関係を作り、厳しい営業環境の中で安定した成果を生み出す仕組みづくりの土台となりうると思い参考としていきたいと思います!

最後までお付き合いいただいてありがとうございます!
機会があればこの辺の分野で実際の業務に関した情報交換やお気軽に絡めたら嬉しく思います!!



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