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帰省電車内2話 -第2話-(1995年?26歳?)

~前置き~
実家の最寄り駅までは、東京から特急電車で約2時間
隣席の方は、しばし旅の友となる。


今度はお勤め時代、お盆に帰省した時の話。
連日の残業で心身ともにクタクタだった私は、待機中の電車に乗るや否や、窓側指定席にどっせいとなだれ込み、「さあ、これから寝るぞー!」と早々に目を閉じスタンバった。

しばらくすると、お隣にどなたかが座った。
しかし、すぐに立ち上がった。
しかし、すぐに着席。
また立ち上がり、また座る。そして、再び立ち上がりそうなモゾモゾとした気配……。

それらの動きに連動して、せわしなく揺れるシート。
『……なんだろ?』
重い瞼をこじあけると、振動主は中年女性。派手ではないが、華やかな雰囲気まとう都会的な方で、外見は堂々たるものである。
なのに、挙動は果てしなくそわそわ……。シートにも極浅く腰かけ、今にも飛び出しそうな勢いである。

……と思っていたら、案の定立ち上がり、今度はホームへ。
そわそわと少し歩き、特に何もすることなくそそくさと再着席。またホームへ。また着席……と、ますます怪しさに磨きがかかっていった。

ふと見た横顔は、硬直し、心ここにあらずといった様相。
視線は、前方のどこかに1点にビタッと固定。足取りも地についておらず、無意識に歩いている感じだ。

このような女性がようやく腰を落ち着けたのは、発車少し前。
『はーやれやれ……』
胸を撫でおろす私。
だがしかし!お次は、荷物をギュッと抱えたまま、前のめりでキョロキョロし始められたのだった……。

一刻たりともじっとしていられないその姿はとんでもなく怪しく、只事ではないことが起こっていることを物語った。
けれど、それに関して私はあまり興味が無かった。人それぞれにご事情があるものだ。
ただこちらとしては、そわそわの気配と振動、ガサガサ音で寝るどころではない。

『何なのだろう。待ち合わせた人が来ないのかな』
私は女性に怪訝な眼差しを向けた後、窓の外に目をやった。

やがて電車は静かに動き出した。
反比例して、意外にもおさまりゆく女性の挙動。
『やれやれ……』
ようやく安堵し、目を閉じようとする。そこへ突然女性から声がかかった。
「すみません……」
「はい?」
「すみませんが、電車が緊張しちゃってどうしようもないので、お話し相手になってもらえませんか?」
「えっ!?」
いやいやいや。飛行機ならまだしも、電車でそんなに緊張するものだろうか。でもって、私は疲れて非常に眠いのだが……。

などと、内心不服を申し立てながらよくよく見た女性は、緊張MAXのガッチガチ状態……。動きがおさまったと思ったのは、落ち着きではなくフリーズだったようで、今にも貧血を起こしそうな勢いである。
『そこまで!?』
相当驚いた私。仕方ないので『こっちも疲れてるから、ちょっとだけね』と心の中で女性に念を押し、お相手することにしたのだった。

「横浜に住んでいるんですけど、▲▲駅(私の実家の最寄り駅よりひと駅手前)に別荘があって、これから行くんです」
女性は、早速事情をご説明された。
「えっ、そうなんですか」
「いつもは主人と行くんですけど、初めて一人で行くので緊張しちゃって……」
「はあ……(だからって……)」
あんぐりする私。

しかし、女性はかまうことなく、ご家族のことや、とあるインストラクターの資格をお持ちであること、その資格を活かしご自宅でお教室を開催されていことなどをとめどなく話された。

会話は8割方彼女のターン。私は意識朦朧、相槌マシーンと化していた。

こうして、永遠にも感じた乗車時間も2時間が経とうとした頃、車内アナウンスが響き渡った。
「次は▲▲駅に停車します」
それはまさに神の声。ようやく解放される時が来たのだ!

降りる準備をする女性。去り際は非常に清々しかった。
「ありがとうございます!乗った時は、どうしようかと思っていたので、本当に助かりました。おかげで楽しく過ごせました。ありがとうございます!」
笑顔で何度もお礼を告げ、席を立たれた。
その笑顔とお言葉に、一瞬『良いことをしたのだ』と思った。けれど、心身は干からびているのを感じた。

「結局、最後の最後まで付き合ってしまった……」
モヤモヤしたやるせなさを感じながら、カラッカラに乾き切った喉をお茶で潤す。
「いやー世の中色んな方がいるものだ。だからこそこれからは、己を守るためにキッパリお断りする、もしくは乗車したらさっさと寝てしまうことが得策だな!」

ここに新たな人生教訓が誕生した。
これだけ痛い目に合ったんだから、この先決して忘れることはないだろう。
そういった意味では、最大級のインパクトを与えて下さった女性との出逢いには感謝なのであった。



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