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沖縄。「心を開き続ける真のつよさ」を持つご夫婦 vol.2(2012年43歳) 

沖縄。「心を開き続ける真のつよさ」を持つご夫婦 vol.1(2012年43歳)つづきです。vol.1はこちら👇

ではつづきをどぞ!


店内は、靴を脱いで上がる寛ぎのお座敷スタイルだった。
カウンターには、ひとり静かに準備を整えておられる、店主さんらしき若い女性(のちに店主さんであることを知る)。にこやかに迎えて下さった。
落ち着いた物腰がとても素敵である。

「お好きな席へどうぞ」と促された席は、お庭のテーブル席を含めざっと見20席ほど。先客はまだなく、選び放題だ。
浮かれた私は、縁側に出て庭用サンダルをお借りし、真っ先に開放感満点なお庭席へ。

でも何故か、縁側にちんまり佇む「ちゃぶ台席」が気になる……と言うことで即ターンバック。店主さんに出来上がりの時間を確認したのち、“ヒラヤーチー”という沖縄式お好み焼きと、トロピカルジュースを注文した。

しばし豊かな静寂の時が流れた。
ここは何もかもが穏やかで、何もかもが本当に美しい。

12月とは思えない柔らかな風が、ゆるりと私を撫でてゆく。
その優しさに全てを委ね、形を変えてゆく雲をぼんやり眺めていたら、いつしか心は空っぽに。今ここに集中できる五感が蘇り始めた。
「幸せかも……」と自然に思えるこの感覚。本当に久しぶりであった。

だが、ほどなくして注文の品が届くと、再び慌ただしく時は流れ出し、時計とにらめっこをしながら沖縄の味を堪能。残すところはジュース半分ということころで、ホッと一息ついた。

沖縄式お好み焼き「ヒラヤーチー」。
薄くて小ぶりだったので、おやつ感覚でペロリいけました。


ややあって、年配のご夫婦がお店に入って来られた。
お二人は、入り口付近で少し話し合われたのち、室内の窓際の席(私の席から見ると、半開きの掃き出し窓を挟んだ、斜め隣)にお座りになり、しばらく店主さんと会話を楽しんでおられた。
漏れ伝わって来る様子から窺うに、皆さん穏やかで思慮深い方々のようである。

『常連さんかな?』
などと思っていると、会話は一段落。今度は、奥さまがおもむろに窓をカラカラと開け、私に声をかけて来られた。
「こんにちは。どこから来られたのですか?」
「神奈川です」
「ええっ!そんな遠くからおひとりで!?すごい!カッコイイですね!(※当時、まだ女ひとり旅はそんなにメジャーではなく、一般的に訳アリというイメージの方が強かった)」
奥さまはそう驚かれると、旦那さまと顔を見合わせ、
「もし良かったら、こちらの広いテーブルで一緒にお茶しませんか?」
と笑顔で誘って下さった。

私はシンプルに嬉しかった。が、バスの時刻が頭をよぎり一瞬躊躇する。
そのわずかな戸惑いを察知されたのか否か、奥様は続けて次のようなことを話された。
「たまたまこの付近のホテルに宿泊する用事があって、昨日車でやって来たんです。今はその帰りなんだけれど、同じ県内には住んでいても、この辺りは殆ど来たことがなくて……。珍しさにキョロキョロしていたら、たまたまこちらのカフェの看板を発見して、思い切って入ってみたの。そしたら、それはもう本当に素晴らしい景色で!二人で感動していたら、その中に女の人がおひとりでいらっしゃるのも見つけて、なんとなくお話が聞きたくなったんです……」

誠意漂う丁寧なご説明に、不思議なご縁を感じた私。
微々たる躊躇は残れど、「では少しだけお邪魔します……」と、ジュースを片手に移動。店主さんも交え、4人で話をし始めたのだった。

すると間もなく、偶然にも4人の共通点(※後日投稿予定の“余談その2”にて補足アリ)が明らかになった。
目に見えぬ一体感に包まれ、輝きを増す私たち……。ますます濃密に語り合った。
なにしろ皆さん、心配りの素晴らしい聡明な方々なので、学ぶことも多く、本当に嬉しいし楽しい。

だが、脳内では時間制限アラームがまたもやビコンビコン。内心ソワソワし始める。
『今何時なんだろう?予定のバスに乗らないと!……でも、すごく楽しいんだよな……』
「去るVS去らない」の主張がバチバチとせめぎ合う。
特に当時は、なにがなんでも思い通りに事を進めなきゃ気が済まない「力づく期」だったので、嫌がる感情を引きずってまでも立ち去ろうとする理性が断然優位に働くと思われた。

しかし結果、またもや本能が勝利。
『与えられたこの楽しい流れを味わおうよ!間に合わなかったら、そういう流れということで』と、理性をなだめることに成功したのだ。

この鷹揚さは、我ながらビックリの変化だった。
『私もそう思えるようになるなんてね……』
意識の半分でしみじみ感慨に耽る。

そこへ突然、場に静けさが訪れた。
和やかにそれとな~く続いていた会話がふと途切れ、妙なが出来たのだ。

その空白にハッとした私。
『あっ!これはきっと、もう行きなさいってことだ!』と確信。
非常にお名残惜しくはあったが、皆さんにお礼を告げ、お店を後にしたのだった。

「……さあ~今何時だ!?」
お庭を進みながら、時間を確認する。
「さっきの妙な “間” が何かからのお達しだったのなら、今バスの時刻にちょうどいいタイミングなんじゃない!?」
……高まる期待。そしたら何と……!ちょうどいい時間どころか、目標時間から10分も過ぎているではないか。しかも、次のバスまで40分もある。
「うえっ~!何この時間中途半端っぷり!?あーあ、お達しは全くの気のせいだったよ……。だったらあのまま話していれば良かった。……いや、それより何より、希望の受付時間に間に合わないかも……!?」

「持っていない己」に、腹の底からため息が出る。
けれど、何故かこの時は気持ちの切り替えが異常に早く、「楽しかったしまあいいか。どうなるか分からないけど、次の停留所までぶらぶらしてみよう!」と新たな目標を胸に、あらためてカフェの小径の植物たちを愉しみながら、ゆったりと辿った。

再びあのかわいらしい看板まで到着し、いよいよバス停に向け、カフェ駐車場の側道を進み出す。……とまさにその時、後方遠くから呼び止めるような声が、ふんわりとした風に乗ってかすかに届いた。

少しずつ近くなる声。ふと振り向くと……なんとビックリ!先ほどのご夫婦が小走りで追いかけて来られているではないか!
「えっ!?どうしたんだろう!?私、忘れ物でもした!?」
小走りするなんて、おそらく余程のこと。私は急いで駆け戻り、数分ぶりの再会を果たした。

「ど!どうしました!?」
早々に質問をする私に、ハアハアと息を荒げた奥さまが、開口一番尋ねて来られた。
「こっ……これからどこか行くの!?」
『……あれっ?忘れ物じゃないのかな?』と混乱しながらも次の目的地を告げると、奥さまは全く躊躇することなく、大きく息を吐きながら一気におっしゃった。
「途中までで良ければ、車で送っていくわよ!」

「えーーーーーっ!?(そのために小走りまでして下さったの!?)」
予想外のことに、私は更に仰天。恐縮し、速やかに辞退した。
ところが、奥さまも即座に、「いいから、いいから!その代わり途中までね!」と、笑顔でさっさとお車へ誘導。
その重すぎない絶妙な優しさに、『途中までなら……』と心がフッと軽くなった私。多少混乱と恐縮を残しながらも、ありがたく乗せていただいたのであった。

車が動き出すと、私たちは再び話し始めた。
共に定年まで教師をされていたお二人は、控えめでありながら、とてもお話上手。それはそれは楽しくて、私は終始前シートの間に顔を突き出していた。

そのような中、何かの話の流れで、奥さまが何とはなしにつぶやかれたのだ。
「実はこの間、水道工事詐欺にあって……」
「えっ!」
何でも、水道工事業者が「頑張って安くしました!」と提示した工費が、実は正規価格よりかなり高額だったことが、工事後しばらくして判明したのだそうだ。
「業者の人は、良さそうな人だったんだけどね……」
残念そうな声色ながらも、微笑みながら話すご夫婦の横顔は、夕凪のようにどこまでも静かで穏やかだった。

「そんな……」
かける言葉に詰まる。
瞬間、閃光とともに斎場御嶽で感じたあの「純粋無垢な慈愛」が脳裏に浮かんだ。
そして、それはお二人の佇まいと自然に重って……切なさが胸にどっと押し寄せた。

『どうして人格者であるお二人が、そんな目に……』
この世の不条理を嘆く。そして変な心配も浮かぶ。
『そのようなご経験があるのに、見ず知らずの私を車に乗せて大丈夫だろうか……』

だが、すぐに思い直す。聡明なお二人のこと、何か思うところがおありなのだ。
おそらく傷つき悲しんでも、それでもなお人を信じて、心を開き続けておられるのだろう。

『なんと真に強く、美しい方々なのか!』
後部座席でひとり敬服し感極まる。
その全身に、心の壁がボロボロと崩れてゆく振動が響き渡った。

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さて、ちょうどその頃。車はとある交差点に差しかかり、ゆっくりと付近のバス停に横づけされつつあった。

奥さまが振り向き、おっしゃった。
「バスの路線の事はよく分からないけど、多分ここから行けるはずよ!」
「はい、分かりました!本当にありがとうございました!!」
感謝が溢れて止まらぬ私はサッと車を降り、「お二人ともお元気で!」と万感の思いで両手を振った。
ご夫婦も満面の笑みで手を振って下さった。
実に晴れやかで清々しいお別れであった。

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その後、未知の現在地に一抹の不安を抱きながら、バス停で路線図を確認したところ……なんと!ちょうど乗り換えずに行ける地点であり、しかも当初予定していた時刻より、早く現地に着きそうである。

「!!!!」
私は鳥肌を立てながら、あらためてお二人に深く感謝したのだった……。


私は今でも人間関係で心が折れそうになると、ご夫婦が“そのお姿”で示して下さった「どんなに傷ついても、心を開き続ける真の強さ」を思い出し、心の壁工事をしたがる手を一旦止める。
それが誰かの心の扉を開け、次々と真の強さと温かさの連鎖が巻き起こる、その日が来るのを願って……。


ここまでご覧くださいまして誠にありがとうございます😌
余談もあるのですが、長くなるため次回更新します。
良かったらそちらもご覧ください (/ω\)

つづきの余談はこちら👇